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ビトゥイーン・ザ・シーツ

【Between the Sheets】


「じゃあ“いつもの”――オマカセで」
「O.K.……そうだな、今日は」


左之さんは少し考えた後、
見とれるような身のこなしで、いくつかの材料を軽くシェイクしていく。

長い指が器用に動くのは、見ているだけでも楽しくて目が離せない。
ボトルキャップを外すだけの仕草にすら魅せられてしまうのは、惚れた弱みか。それとも左之さんの天性の素質だろうか(たらし、って意味でね)。


「お待たせ」

最後に軽くウインク1つ。
と、僕の前に置かれたそのグラス。

出てきた今日の“オマカセ”は―――
オレンジと黄色の混ざり合ったような、綺麗な色をしたお酒。

すん…と匂いをかいでみると、果実系(柑橘類かな?)の中に、ふんわりただよう甘い香り。

コクリ、と一口。

結構強いお酒が入っている気がするけど、レモンの香りがそれをあまり感じさせない――そうか、これはレモンの香りだ。“柑橘系”って漠然としていたものの正体。自分でその答えを導き出せたことが嬉しくて、自然と口角が上がってしまう。


「これは――なんて、カクテル??」


うん、合格点。
名前を覚えておいてあげよう。

すると左之さんは、男の僕でもドキリとするような――意味深な笑みを浮かべた。

「ビトウィーン・ザ・シーツ」
「……Between…?」

「―――…『ベッドに入って』」

「……っ?!」

真っ直ぐに目を見つめられ、囁かれる低音。

紡がれたそのセリフに、自分でも感じる顔の火照り。

左之さんの薄くて赤い唇が、綺麗な弧を描いて、目が釘付けになる。
その妖艶さに、クラクラする。

目を反らした先の、手元のグラスで揺れるカクテルが――左之さんの深い瞳の色と、同じことに気付いてしまって余計に……

「失礼ですが、お客様?本日はすでにどこかで結構な量を飲んでいらしたのでは?」
「…えっ……?そ、そうだけど…なん、で?」

突然、接客モードに切り替わった左之さんに、うまい対処も出来なくて。しどろもどろになりながらも、肯定の言葉だけをなんとか吐き出す。


顔をあげると、そこに居たのは、いつもの左之さん。


「お前、明日は一限取ってる日だろ?早く帰っていい子で寝ろよ?」
「え、……え?」
「名前の通り。“寝酒”…としても人気の高い酒なんだよ」
「…あ……」

僕は一体、なにを勘違いしてしまったんだろう。
ますます頬が熱くなるのを感じて、隠すように俯きながらちびちびとカクテルを口に運ぶ。喉に絡むけだるい甘さが、まるで脳を溶かしていくような、

(―――寝酒…)


Between the Sheets――ベッドに入って

ここに来る前、大学の友人に付き合って飲み会に顔を出してきたのは確かだった。あまり飲んだつもりも、酔ったつもりもなかったけど。左之さんには最初から、しっかりとバレていたらしい。

だからこのカクテル、だったのだ。
―――なんて馬鹿みたいな勘違い。


(まさか誘われてる?…だなんて…)


「ま、そーゆーこった。それ一杯飲んだら今日はおとなしく帰ること。いいな?」
「――……はーい。」


せめてベッドに入った後は、
同じくらい甘い夢を見せて欲しいよね。

そんなコトを考えながら、僕は手元のグラスを一気に煽った。



**********



“寝酒”だけならば、
選択肢なんて他にいくらでも、それこそ数え切れないくらいある。


【Between the Sheets】


あえて、その名 を借りたのだ。
意味深な名前をもつ、あのカクテルを…


(――感度は、良好…か。)

そんなズルい大人の笑みを、俯いていた総司は知らない。



原→←沖
左之さんは何となく気付いてる頃



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