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Break. レインボー



用意するのは、7つのリキュール。

それらを洒落たグラスの中へ、比重の重い順にそっと注げば層を成す。要は、水と油が分離するのと同じ原理だ。

が――、
言うは易し、行なうは難し。

きれいな虹に仕上げるのは中々に難しく、バーテン泣かせのグラスの1つでもある。
平たく言うなら“面倒な”カクテル。


必要なのは、知識と経験とテクニック。

うまく出来たなら拍手喝采


【レインボー】


カラフルな色のごとく目を惹く容姿。
しかし、性格は外見とは裏腹に意外とデリケートで繊細だったりする。一見、人当たりが良さそうなのに騙されて近寄ってくる奴も多いが、アイツの心の壁は中々に高い。
だからゆっくりと、時間をかけて。
全部なんて理解してやれないだろうが――それでも知りたいと思うから――1つずつ大切に積み重ねて。



例えるならば、
プースカフェのように―――


**********




「――出来た、はいいが…」

出来上がった1つのカクテル。
こっそりと練習し続けているその1杯を、評価してみるため半歩下がる。あくまで客観的に、冷静に。

何とか層は作れたものの、微妙に交じり合ったところが一箇所。
大目に見てくれよ、とは言えない。
素人商売じゃねぇんだから。これで食っていこうと決めた手前、俺にもプライドってもんがある。

色のバランスは悪くはない、と思いたい。

「けどな……」

頭の片隅で描くイメージをそのまま取り出すのであれば、ほんの少しだけ何かが違う。


(やっぱ緑、だよな……)


目を閉じればすぐに浮かんでくる姿、声、雰囲気。それに、出来たカクテルを照らし合わせる。このグラスで「お前をイメージしてみた」なんてくさい台詞、胸をはって言えるだろうか―――答えはNOだ。

大きく溜息を吐いた。

まだまだ未熟な自分の不甲斐なさへの苛立ちと焦燥。“アイツ”が店を訪れるようになってから、俺の勉強量と練習量は倍以上に増えた。腕は格段に上がったと自負してもいるが、それでも、だからこそ追いつかない課題が山のように出てくることも必至で。


八つ当たりのように、グラスへと乱暴にストローを突き刺した。本来ならば仕上げのこいつも、丁寧にそっと差込まなければならない。そうでなけりゃ、折角綺麗に積み重ねた層が駄目になってしまうから、だ。

緑、黄、赤、……ストローを廻せば、
あっという間に境目も色も失っていく手の中のカクテル。

基本的には“見目”を重視して作られるこのカクテルは、ストローを差込む位置を変えながら1つずつのリキュールとして味わわれることが多い。7つのリキュールを1つのグラスに注いでいるのだから、全部合わせた場合、微妙な代物、になってしまうのは仕方ないかもしれない―――けれど、色も、味も、何もかも――どろどろに溶け合わせても尚、美味いグラスが俺にも作れるのだとしたら……


――本気を伝えられるかもしれない。




「……なんて、らしくねぇのかもしれないけどな」




原→(←)沖
大切にしたくてぐちゃぐちゃにしたい気持ち。

別々の色のリキュールが段々になってるカクテルをプースカフェ。7色のものがレインボーです。難しいらしいので、バーに行って頼む時はその店を見極めてねww…って雑誌にも載っていたり。カウンターバーなら大丈夫だと思います♪



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