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時巡り 〜原田〜



やっぱり俺は伊予に生まれる運命か。



そうがっくり膝を付いた少年時代。

しかし幸運にも親父の仕事の関係で東京へ行ける事になった。


待ってろよ、総司。


思った俺は甘かった。

生まれ変わったからって、そう簡単に会えるもんじゃあねえ。

だけど、諦める気もねえ。

とは言ってもどうしたものか。


だけどぜってえ見つけるから。

総司。

浮気しねえで待ってろよ。










「マジ、可愛いよなあ」

「何処の子なんだろ。プロフィール全部秘密なんて、益々興味が・・!」

「ま、それが狙いなんじゃね?と思いつつ、気になるよな」

学食で聞こえて来た声。

彼らの新たなアイドルが誕生したらしいとだけ思い、原田は沖田を思う。


あいつより可愛い存在なんて有り得ねえし。


見かけだけじゃない。

中身も全部・・・。


・・・なんて言ったら、腹抱えて笑いそうだけどな。

心のなか、ひとり苦笑する原田の前に何かが出現した。

「はーらだ!ほら!可愛いだろ?」

唐突に突きつけられた紙っぺら。

何かの写真をカラーコピーしたらしいそれをいつものように押しのけようとして、原田の手が止まった。


総司!


「お、原田好印象!初めてじゃねえか。そうか、こういう子が好みだったのか」

嬉しそうにばんばん背を叩く友人の声も遠くに感じる。

探し求めたその姿。

何故ドレスなど纏っているのか謎だが、そんな事はどうでもいい。


やっと見つけた。


その思いで原田はただ、ドレス姿で微笑む沖田を見つめていた。















寛永寺で消えた沖田。

その姿を以来見る事は無く、ただ流れて行く時間。

ふたりで住む筈だった家の縁側に座れば、夏を迎えて色を増した翠が沖田の瞳を思い出させるだけ。


左之さん。


今にも聞こえそうな朗々たる声。


左之さん。


「左之さん・・・左之さんってば」

焦れたように原田を呼んで庭に立つひと。

今まで確かに誰も居なかったそこに立っている沖田。

「・・・総司?」

思わず呼べば、嬉しそうな笑みが返る。

「そうですよ、総司です。もう忘れちゃいましたか?」

哀しそうな表情を浮かべられて、原田は縁から滑り降りた。

「そんな訳ねえだろ」

目の前で消えて行った沖田。

その姿を思えば胸が潰れる思いがする。

沖田が身に纏う異国の服。

それが堪らない違和を感じさせるけれど。

「総司」



総司は総司。



思い、抱き寄せようとして原田は透明な何かにその手を阻まれた。

「左之さん」

しかし、透明な何かの向こうで同じように手を伸ばした沖田のそれと、原田のそれが重なり合う。

触れ合わず、ぬくもりを感じられずとも重なる手のひら。

「左之さん。
僕、生まれ変われるんです。ここからだと、もっと先ですけど」

現実味を帯びない沖田の存在。

その言葉。

「生まれ・・変わる?」

「はい。これから行く、そこにはもう左之さんも居るらしいんですよ。何か、面白いですけど」

本当に可笑しそうに笑って沖田は原田を見た。

「左之さん・・・」

真剣さを増した瞳が、それでも何かを迷う。

「探してやる・・・だから、絶対に待ってろ」


沖田の迷いを断ち切るよう言い切って、原田は強い笑みを浮かべた。


















江戸の家での、あの不思議な体験。

しかし、あれがあったからこそ沖田の居ない生を乗り越えられたと原田は思っている。



総司。



あの日沖田の言った通りに生まれ変わり、それからずっと探し続けた沖田。

その姿を写真・・のフルカラーコピーとはいえ見る事が出来て、この世界に確かに存在するのだと実感できた。


探せば会える。


確証されて膨らむ期待。

しかして、実際に会うのは難しい。

無為に時間ばかりが過ぎて行くのに耐えきれず、原田は父親の力を借りようと決めた。

服飾関係の仕事をしている父は、母亡きあと仕事の鬼のようになったお陰で、かなりの成功を収めている。

彼ならば、沖田の所在を割り出せるだろうと原田は思う。



ちょっと汚ねえ手かもしれないけどな。



思いつつ、譲り受けたコピーを示して知っているかと尋ねた原田に父親はにっこり笑って答えてくれた。


「総司君か。お前の弟になる子だ」














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