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時巡り 〜ふたり〜

『お前の弟になる子だ』

父親の言葉を理解したとき、原田は生まれて初めて父を賛辞した。


でかした、親父!


その思いのまま再婚には全面的に賛成だと告げれば、父もまた嬉しそうに笑った。

相手の女性はとても優しいひとだから、きっとお前も好きになる、と。

もちろん、沖田の母なのだ。

大切にするのは当たり前だと思う原田に、父は心から安堵の表情を見せた。


父が結んだ縁により、今直ぐにも沖田に会える。

その思いが原田を包む。

羽があったら飛んでいきたい。

今まさに、そんな心境だった。

待ったのだ。

あの別れからずっと。

今も浮かぶ、沖田の最期の笑顔。

しかし、その日々ももう終わりを告げる。

会えるのだ。

沖田に。


お前がそんなに喜んでくれるとは。

などと感動している父との間に意思の疎通は余り無かったように思わないでもない原田だったが、この際、そんな事は関係ない。





待ってろ総司。

もうすぐお前を迎えに行く。
















「・・・待ち合わせ場所がここって一体」

呟いて沖田は寛永寺の境内を見渡した。

母の再婚相手の息子に初めて会う。

その待ち合わせの場所が寛永寺。

「あんまり無いような気がする」

沖田にとって、ここは特別な場所。

しかして普通の人がここに執着する理由は余り無いように思う。

「静かな場所が好きなひとなのかな」

思い、沖田はひとつため息を吐いた。

ここへ来れば、鮮明に思い出す記憶。


あの日。

原田の前から消えた沖田。

喧騒と硝煙。

そして原田の驚愕に満ちた顔。


脳裏に残るその景色が、今の平和な情景と交差する。

「左之さん、会いたいです・・・先に消えちゃった僕に言う資格は無いかも知れないですけど」

大きな木の幹。

もしかしたら、あの頃からあったかも知れない木。

それにそっと触れる沖田の背にかかる人影。

「そうか。それがお前の迷いか」

誰も居ないと思っていた場所に現れた人物。
しかもその声はずっと求めていたひとのもの。

「どうした?総司。顔、見せてくれねえのか?」

言われても沖田は振り返れなかった。

今起こっていることが現実だと受け止め切れない。

喜びと驚き。

過去と現在が混在して沖田を混乱させる。

「・・・この辺りだったか」

振り返らない沖田を無理強いすることなく、原田がそう言って辺りを見回す気配がした。

「昔、薄情な男が居てな。俺の目の前で消えちまった」

はっとしたように動く沖田の背。

それを愛し気に見つめて、原田は言葉を紡ぐ。

「俺は、そいつを助けられなかったんだ。何もしてやれなかった」

「それは違う!」

咄嗟に振り返った沖田を、原田の深い眼差しが迎えた。

「やっと向いてくれたな」

あの頃と変わらない瞳に見つめられて、沖田はただその瞳を見つめ返す事しかできない。

「総司・・・」

名を呼んで、沖田の頬にそっと触れる手。

幾度も何かを言いかけて開く唇。

「総司・・・会いたかった・・・っ」

ぐっと腕を引かれ、深く強く抱き締められて原田の鼓動とぬくもりを感じる。


このひとは生きて来た。

僕が遺してしまったあの場所で、ずっと。


「僕も・・会いたかった。左之さん、ごめん。ひとりにしてごめん」

溢れる涙。

それを拭う事もせず、沖田は縋るように原田の身体に腕を回した。

「・・・もう、二度と消えないでくれ」

哀切を帯びた原田の声。それに、沖田は幾度も頷きを返した。











「・・・え?じゃあ何か?江戸のあの家に来たこと、覚えてねえのか?」


『僕、生まれ変われるんです』


そう言いに来た沖田。

何か迷いを持っていた沖田。

その記憶が沖田には無いという。

「僕の最後の記憶は、ここ。それ以上は無いですよ」

不思議そうに言って沖田は笑った。

「それ、本当に僕ですか?」

「俺がお前を見間違うかよ」

言えば沖田の頬が朱に染まった。

「なんだ?当たり前だろ」

当然だと言って、原田がやや乱暴に沖田の髪を撫でた。

「・・・でも、僕ならありそう」

小さく呟いた沖田に原田は瞳でその先を促した。

「ありそうじゃないですか。生まれ変わっても僕を探して、僕だけを・・」

「お前だけを?」

言いながら、原田が沖田の目を覗き込んだ。

「左之さん。楽しんでますね」

拗ねた様子の沖田に原田が楽しそうに笑った。

「嬉しいからな。そうか。僕だけを愛して、か?」

口調を真似て言えば、沖田の頬が更に紅くなった。

「そんなはっきり言って無いじゃないですか!」

「まあ、そう照れるなよ」

笑いながら言った原田の目が真剣な色を宿す。

「俺も、同じだ。
俺も、お前を独占したい。この先もずっと」

「ほんとに僕でいいんですか?自分で言うのも何ですけど、もっと性格のいい子が・・」

「お前がいい」

抱き締めて、沖田の言葉を遮る。

「俺は、お前がいい」


お前は?


囁くように聞かれ、沖田はそっと原田の瞳を見つめた。

「僕も、左之さんがいい・・・」

凭れかかる胸の強さ。

感じる鼓動。

引き合うように重なる唇。




春も夏も秋も冬も。

いつも共に在ること。




漸く辿り着いた互いの隣でずっと。



いつまでも。









蒼子様のサイトにて10000打記念リクを受け付けていた際に、勇気を出してリクをさせて頂いちゃいました!

……ら。長編の素敵原沖っていうか、原沖の理想を全部詰め込んでバッチリ形にして頂いちゃって><もう、萌え過ぎて天国に逝けると思いました真剣に!!!
史実踏まえた原沖の最終形態というかっ。言葉もありませんてくらい泣いて萌えさせて頂きました。本当にありがとうございますm(_ _)m



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