小説 | ナノ





【 序 】 感触

冬も終わりが近づき、春の足音が聞こえ始めた頃。
僕はさらに、夢に悩まされることになった。


理由は――ちょっと、言い難い。


一般的な名称で呼ぶのなら、多分それは“淫夢”と分類されるもの。とは言え、仮にも高校生男子が見る夢なのだから。本来ならば「健全でしょ」と、笑って済ませられる筈だった。


―――相手が女であったなら。

そう、繰り返される夢の中で自分が体を重ねていた相手は、まぎれもなく………男、だった。しかも、問題はそれだけではない。自らが、所謂、まさかの、女役。抱かれる側なのだ。

まったくもって、あり得ない。

もちろん、最初は混乱した。
“あの人”に抱かれた感触が、あまりにもリアルだったから。


言っておくけど、僕は男なんか好きじゃない。
中学の時も高校に入ってからも、何度か彼女は作ったし――ただし長続き、には今のところ縁がないのだけれど――柔らかくてあったかい女の子の感触は嫌いじゃない。考えるまでもなく、小さくてふわふわした存在を抱いている方が気持ち良いに決まってる。

それなのに。

夢に居る自分は、その男との関係を、まるで“日常”の1ページのように捉え、さも当然のように受け容れる。触れられたいと願い、逞しい腕に包まれることで安堵し、身体を開く。

さらに問題なのは、その夢が回数を重ねるたびにリアルさを増していくコトと、それに対して現実の自分が嫌悪感を抱いていないという事実。同じ夢の中でも、人を斬る感触や返り血を浴びる事には、ぞっとしている訳だし。普通だったら、イヤなはずだ―――と思う。

でも、違った。

男と…なんて、あり得ないと思った。
おかしい、とも思う。
けれど夢の彼との行為がイヤだとは、どうしても思えない。

“あの人”に頬を包まれ、唇を重ねられても。抱きしめられて、体中を指や舌でなぞられても。足を開かれ、揺さぶられても―――熱さに目眩がして目を覚ました時、あるのは嫌悪や拒絶じゃない。だから、困る。

目が覚めた布団の中で、身体に燻った熱をどうにかするため、何度自身を慰めるハメになったことか。

熱を吐き出すための自慰に耽る間、頭の片隅にちらつくのは、今まで付き合った女の子達とか雑誌に載ってるようなアイドルじゃない。夢の中でしか逢えない、それどころかその容姿さえ曖昧な、名前も知らない“あの人”―――目を閉じて、夢の情事で彼が与える指の動きを、思い出しながら。

達する瞬間、呼ぶ名前をもっていないもどかしさに唇を噛んで耐え、

あとに残るのはただの虚しさ。



(本当に、この夢は、なんなんだろう―――)


夢が与える楽しさや苦しさ、それの意味がわからない焦燥や苛立ち。

――いっそ病院に行くべきかな?

色んなものがごちゃ混ぜになって、そんな事を考えたのは、二年への進級を間近にひかえた春休みのこと。
時間はたくさんあるのだからと、『夢診断』から『前世療法』まで関連書籍エトセトラ、大量の本を図書館で借りてきたのがきっかけだ。

やっぱりもう、ただの夢と笑うことは出来なくて。くだらないと、気にせず生活することなんて無理な話で。藁にでもすがりたい気分だったんだから仕方ない。


気付けば「夢」の記憶が残るようになってから、既に一年がたとうとしていた。


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