小説 | ナノ





【 序 】 夢

(また、あの夢を見た――)


毎朝そう思って目を覚ました。
でも、なんだかそれって不思議な話だよね。だってそう思った僕はもう、夢の内容なんて全然覚えていないんだから…





目を開けた瞬間に、僕の中で何かがパチンとはじけてしまって……それでリセット。

小さい頃からそんな朝の繰り返しだった。ただの“夢”だと思っていたし、特に気にかけたこともない。日常生活に支障が出るわけでもなかったし。


夢の記憶がリセットされなくなったのは、1年くらい前のこと。高校に入学したあたりからだ。


それでもまだ、夢の輪郭はぼやけていて、曖昧な記憶しか残らなかったけれど―――『全部忘れていられた方が、幸せだったのかもしれない』―――初めて夢を認識した朝、そう思ったのをよく覚えている。



毎夜、見続ける夢の中で



―――僕は、刀を手にしていた。

腕に感じるその重さも、人を斬るいやな感触も、夢の中の「僕」が感じる……高揚感も、気持ちが悪くて仕方なかった。そんなのが「僕」だと受けいれるのが怖くて、何度も何度も、朝がくるたびに否定した。


「僕」はヒトゴロシなのだろうか?

それともコレは一種の願望のようなもの?自分の中には狂気が潜んでいるとでも?もしかして僕は、おかしくなってしまうのだろうか――?そんな事ばかり考えた。


怖かった。

吐き気がした。

震えがとまらなかった。


それでも繰り返されるリアルな“夢”



訳が分からなくて、苦しさで目覚める朝を何度もむかえて。

そんな朝を繰り返すうち、
曖昧だった夢が徐々に鮮明なものへと変化していったのは、高校に入学してから半年くらいたった頃だった。



鮮明になったと言っても、映像がクリアになったとか、そういうことじゃない。夢の中の「僕」と僕がリンクして、感情が流れ込んでくるようになった―――言葉にするとそんな感じ。


あれは今思えば――

夢の「僕」を否定することに疲れて、

もしかしたら夢の中の「僕」も、本当に自分なのかもしれないと甘受した頃だったような気がする。


そうしたらそれがプラスに働いた。


夢の中の「僕」は相変わらず刀を握っていたけれど、それが決して狂気や快楽で振るっているものじゃないってわかったから、少しずつ恐怖は消えていった。
刃がめり込む感触とか、斬った後の変な高揚感に対する嫌悪は変わらずだったけど……そんなのが平気だっていうなら、それは僕の精神が病んでる証拠だ。慣れなくていい。


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