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アメリカンビューティー


【AMERICAN BEAUTY】


「ねぇ、僕みたいなカクテルを作ってよ」

開口一番の台詞は、深夜に観た、名前も知らない映画から。


昨日の深夜―――
ついうっかり、TVをつけたまま居眠りをしてしまった僕が目を覚ました時、画面の中で流れていたのはモノクロ映画。
アンティークなバーカウンターで、帽子をかぶった美女が笑う。

“ねぇ。私みたいなカクテルを頂戴”

目に飛び込んできた字幕は、やけに印象的で。

あぁそうだ。
明日左之さんに頼んでみよう。

そんな事を考えながら、僕は再び睡魔に負けてしまったのだった。



「来て早々無茶苦茶言うな、お前は」


なんかの映画のネタにでもあったか?と、大正解を言い当てられたのが照れくさくて、誤魔化すように肩をすくめる。やっぱり台詞くさかったかな。

でも、作って欲しいのは事実だから、そこは何とか食い下がる。

「左之さんじゃなかったら言いませんって♪」
「…ったく。こんな時ばっかり持ち上げやがって」
「いいじゃない。出来ないと思ってたら言わないし?」
「お。随分と認められたもんだな」

軽口を言い合いながらも、すでに左之さんは何かを考えているみたいで。
並んだボトルを見つめている瞳の色は真剣そのもの。

「よし、決めた」

言いながら左之さんが手にしたのは、ブランデーと1本のワインボトル。

「一般的な…他の奴らから見た場合、の、お前でいいんだよな?」
「――――え?」

言われたことの意味がよくわからない。
じゃあ一般的じゃない僕ってなんだろう?そんなことを考えているうちに、目の前のテーブルに鮮やかな赤が添えられる。

「お待たせしました。“アメリカン・ビューティー”でございます」
「……アメリカン…って、僕が?」
「――あ?あぁ……ははっ!違ぇって…そういう意味じゃねぇよ」

出てきたカクテルの意味も不明で、唇を尖らせた僕の様子がツボにはまったらしい左之さんは、珍しく大口を開けて笑っている。

いい男が台無しですよ?
(それでもまぁ、悔しいことに……格好いいことに変わりないんだけど!)



「悪ぃ悪ぃ。アメリカ産のバラの品種なんだ」


“アメリカン・ビューティー”


「このカクテルの名前が?」
「そ。カウンターの上に咲く深紅のバラ――そっから名前がきてんだよ」
「バラ……だからこんな真っ赤なんだ」
「鮮やかだろ。インパクトあるし、何より目を惹く」
「――それが、僕?」
「まあ、飲んでみろって」

何が出てくるかなんて全く予想もつかなかったけど、まさか花に例えられるとは思ってなかったので、正直反応に困ってしまう。

しかも『薔薇』

左之さんから見たら、僕はそんなにお高くとまっているように見えるんだろうか。
それとも、その花が“愛”の象徴として知られているように、含んだ意味を期待していいんだろうか。

不安半分、期待半分で――

そのカクテルを、口に運ぶ。

「………甘っ?!」

ワインだと思って飲んだそれの甘さに驚いて、左之さんの方を見てみると――信じられないことに、俯きながら肩をふるわせていて(もしかして、笑ってる?)

「ちょっと、左之さん?」
「高嶺の花を気取ってる「バラ」の名前をもらってるわりには、甘いんだよなぁそれ」
「……………」
「でも最後にはピリッとしただろ?」

あった、かな?

左之さんを睨みながらもう一口、じっくり味わって飲んでみれば、確かに。
甘さに気を取られて気付かなかったけど、最後に薄く残るのは――

「――ミント?」
「正解。ほら、綺麗なバラには…」
「とげがあるって?」
「そーゆーこったな。でも美味いだろ?」
「……美味しいけど、もしかして、子供扱いしてませんか」

つまり。

左之さんの、作ってくれたカクテルを総合して考えてみると。

一見、高嶺の花だけど
中身は結構お子様で
だけど棘はもってるから、扱う時には注意しろ。

「…ってこと?」
「よく出来たな、褒めてやろう」

よしよし、と。乱暴に頭を撫でられる。

完全に子供扱い、だ。
バラとか言うから、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ期待したのに。


『僕みたいなカクテルを作ってよ』


映画のワンシーンを真似することで、少しでも左之さんの気持ちが探れたら、なんて。
こんな事してるから、子供扱いしかしてもらえないんだろうか。

なんだか悲しくなってテーブルに突っ伏すと、さっきまでの僕をからかうトーンとは違う、優しい音色がふってきた。

「よく出来たご褒美に、俺から一杯サービスしてやるよ」
「……左之さんのオススメ?」
「ああ。“お前みたいなカクテル”」
「もう、コレはいりませんから」
「なんだ。気に入らなかったか?」
「味は、おいしいけど……」

「じゃあいいだろ。次は、お前が飲みたがってたやつ、作ってやるから」


僕が飲みたがっていたカクテル?


今日ここに来てから――僕が左之さんにリクエストしたのは、1つしかない。
そして、それは既に目の前にあって。

「……僕、なにか言ったっけ?」


「俺から見た場合の“お前みたいなカクテル”、だろ?」


「…………………ぅ…」
やっぱりこの人にはかなわない!


目の前の「深紅のバラ」と同じ色に染まってしまった顔を隠すため、僕は再度テーブルに伏せるしかなかった。



原→←沖
左之さんは完全に気付いてるけど、頑張ってる総司が可愛いからもう少しこのままでいいかなぁって感じで。



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