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7月/総司誕/SSL(2)

(何て言うか、古典的な……)


さて、僕の誕生日当日の朝。

登校した僕を出迎えてくれたのは、下駄箱からロッカーまで、詰め込まれたプレゼントの山だった。
綺麗にラッピングされたものにメッセージカードが挟んであったり、古風に手紙だけだったりと、種類は様々だったけど――中を見ずとも「誕生日プレゼント」なのだとわかるソレ。

(今時こんな渡し方って、残ってるもんなんだ)

不安定ながらも、靴箱の中から落ちることなく絶妙のバランスで詰め込まれているんだから凄いなぁ。
なんて変なところに感心しながら、カバンに入れることもままならない量に昇降口で途方に暮れていると、背後から良く知った声が聞こえてきた。

「ほら、総司。コレを使うといい」
「あ、はじめ君!おはよう」

「おはよう。それと、誕生日、おめでとう。メールでも送ったが……」

直接でないと、どうも伝えた気がしない――照れているのか、うっすら頬を染めてそんな事を言う一君が手にしているのは、1枚の大きな紙袋。

「……それって?」

洒落た柄で飾られているわけでもない、誰もが知っている大型電気店のロゴが入った大きな紙袋が、一君があらかじめ“用意してきたもの”だっていう何よりの証拠で。
どうして一君がそんなものを持ってきたのか、僕は首を傾げる。

「あぁ、これか。昨日ちょうどクラスの女子が話しているのを聞いて……」
「話してたって、何を?紙袋と関係あるの?」
「ある。一人があんたの誕生日にプレゼントを渡すと言ったら、その場に居た何人かが“自分も渡す”と。全員でロッカーに入れる算段をしていた。おそらく必要になるだろうと思い持ってきたのだが、正解だったようだな」
「全くみんな……絶対面白がってるよね?僕の誕生日を勝手にイベントにしないで欲しいな〜」
「そう言う訳では、ないと思うが」


要するに―――
誰かが下駄箱やらロッカーやらにプレゼントを入れる、なんて古典的な「遊び」を思いついて、それに便乗しちゃった女の子達が面白がってプレゼントを突っ込んでるってわけでしょう?

言うと、一君は呆れたように、肩を落としてため息を吐いた。

「総司は聡いが、己の事には本当に鈍いな」
「………なにそれ?」
「まんまの意味だ。」
「ますますわかんないよ」


一君にもらった大きな紙袋にプレゼントを詰め込んで、教室に向かう途中にも――クラスメイトから、名前を知ってるだけの違うクラスの同級生まで――すっかり知れ渡ってしまったらしい僕の誕生日に対する「おめでとう」の言葉がたくさん投げ掛けられ……僕は朝から、数え切れないくらいの「ありがとう」を口にする羽目になった。


面倒だと思う反面、やっぱり嬉しいって思いもあって、意外と僕も単純なんだなと新しい発見をした気分だった。



**************************



まもなく放課後――
いつも半分以上は聞いていないHRの時間、今日も僕はボーっと空を眺めていた。


振り返ってみる一日のこと。


(とにかく食べ物に困らない日だったな)


朝、金欠の平助君がくれた駄菓子の詰め合わせに始まって、休み時間に昼休み――…誰かしらがくれるお菓子のお裾わけ。キャンディにガムにチョコレート。ポッキー、クッキー、お煎餅。少しずつ増えていったそれは、気付いてみれば暫くおやつには困らないくらいの、結構な量になっていて。

一君が気合いを入れて作ってきてくれたお弁当のおかげで、お昼もお腹いっぱい食べれたし(平助君にねだったコロッケパンは次の機会になっちゃったけど)、自販機の前で出くわしたクラスメイトには飲み物を奢ってもらった。

イベントが大好きらしい皆のおかげで、僕の財布は大助かりだ。

嬉しくなかったのは、幾つかの授業でプレゼントされた『解答権』
祝ってくれるつもりなら、むしろ指名しないで欲しいのに。古典の授業なんて、宿題のプリントってオマケまで付いてきたって云うんだから、ろくな誕生日プレゼントじゃない。


でも、と思う。


こんなにたくさんの先生達にだってバッチリ伝わってるくらいなんだから――


(原田先生も、僕の誕生日ってわかってくれたかな……?)


どんなにたくさん「おめでとう」をもらっても、何処か満たされていない気がするのは、今日まだ一度も顔を合わせていない先生のせいだ。
授業はなかったし、廊下ですれ違うこともなかった。
顔を見るどころか、挨拶すら交わしていない“今日”

今日、誕生日なんです。

可愛い生徒にお祝いのひとつでも贈ってみませんか。

会ったらなんて言おうとか、頭の中で何度も何度もシミュレートしたにもかかわらず、まだ何一つ実行出来ていない“今日”


(ジュース1本くらい……でも、貰えたら部屋にでも飾るのにな)


大きくため息を1つ吐いて、ふと窓から見える校舎の方へ視線を移すと、反対側の校舎を赤い髪の人物がのらりくらりと歩いている姿を発見した。

噂をすれば何とやら?
まさかのタイミングに息をのみ、思わず腰を浮かしかける。


向かっていく先、あの方向は多分――


(保健室――……!)


HRが終わると同時に、僕は教室を飛び出していた。


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