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7月/総司誕/SSL(1)

午前0時。
日付が変わると共に訪れたのは「僕の誕生日」と、携帯電話のメール着信音。
何度かに分かれて忙しなく鳴る携帯が落ち着くのを待って、画面を開く。


『誕生日おめでとう』


1番に届いていたのは、簡潔にそれだけ書かれた一君からのメール。
何とも“らしい”簡潔さ。
いつもは日付が変わる前に布団に入るらしい一君が、僕にこの一言を贈るためだけに頑張って起きててくれたのだと思うと、思わず笑みが溢れてしまう。律儀な彼のことだから、僕が返信しないと、きっと安眠出来ないだろう。携帯電話を片手に眠気に目をこする一君を想像しながら、僕は『ありがとう』と、同じような簡潔さでメールを返信した。



『一番のりっ!……だよな?』

そんな件名から始まっているのは、2番目に届いていた平助君からのメール。

おめでとう。
でもゴメン。
金欠だから期待しないでくれ。

こちらも“らしい”テンションでつらつらと書かれているのは、大体にしてそんな内容。彼のメールは基本的に、目の前で喋っているときと温度差がない。嘘のつけない性格が、まんま文面になっている感じで好感がもてる。
「ありがとう」のお礼と一緒に、今日のお昼用――購買部一番人気の130円のコロッケパンを強請る文章を添えてから、返信を押した。一分も待たずに返ってきた「任せておけ」の頼もしい一言に、「期待してる」とレスをして、残りのメールに目を通す。


学校での仲はそこそこと言った感じのクラスメイト達から、イベントに乗じるかのように送られて来ているメール。
いつアドレスを交換したのかも記憶に薄い女の子達からのメールは、簡潔なものから恋愛感情をほのめかすような感じのものまで様々だ。

さすがにソレらに返信する気にはなれなくて、僕はそのまま携帯をとじた。
「おめでとう」を送ってきてくれた彼らには、明日学校で「ありがとう」と笑顔を添えることにする。


そのままベッドに転がって天井を見上げた。


鳴らなくなった携帯を見つめながら、
どうしても考えてしまうのは、好きな人のこと。

『誕生日おめでとう』

僕のアドレスを知らないであろう先生から、そんな一言が送られてくることは、ない。

担任でもなければ、部活の顧問とかでもなくて。
僕と先生の繋がりなんてほとんどないに等しいんだけど、顔を合わせる度に僕の頭を撫でてくれる大きな手がすごく心地よくて、思わず甘えたくなってしまう、そんな先生。


他の生徒より は、仲が良い。


それだけは自信をもって言える。
だからもしかしたら、万が一だけれど、学校で書かされた生徒の緊急連絡用の情報からアドレスを入手してたりして……なんて、有り得ない期待と妄想を膨らませてみたりして。

(別に、祝って欲しいわけじゃないけどさ……)

有り得ないと頭では理解しているのに、心のどこかで期待を捨てきれない自分が馬鹿みたいで、僕は布団に潜り込んだ。


結局、ちょっとだけ仲が良いってだけの理由で、教師が一生徒の誕生日を祝ってくれるなんてコトはやっぱりなくて―――僕は、携帯電話の中のたくさんの「おめでとう」を見ながら、どこか空しい気持ちで眠りについた。





どんなに沢山の“おめでとう”を貰ったって、本当に欲しい1つがないんじゃ意味がない。


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