薬缶


(このまま溶けてしまえば)

薬を飲んでから布団に潜るとどこか別な空間に飛び込んでいくような溶け込んでいくような感じがして好きだった、小さい頃から。潜り込んだその瞬間それはもう俺の空間で世界で生きるための場所だとすら思える。いつだったかシズちゃんにやめろ、馬鹿と言われたけれど気にも止めないでいれるのはそこでしか縋れないからだ誰かに俺が、ゆいいつ縋ることができる場所だからだ『虚しいと思わないの』
ぎゅっと自身を抱きしめれば会話スタートの合図で、抱き締めてくれる俺はとても優しい、何でも言って良くて、欲を言っていいなら寂しいよ。素直になれない俺は縋りたがりの諦めたがり、嫌にだってなる

『分かってるきみは最高に馬鹿で、嫌いで、欲張りだ』

触れられたくないくせに、自分からは縋りつこうとするのはズルいんだと。ねえだから寂しいならこっちに来てよ、と、話しかけてくる声の俺は顔はきっと悲しいようにも怒ったようにも見えるのだろう。スカスカの細い声で言う
『いまはここにあるのに』

その暖かい言葉はするすると抜けてそれはそれは飲みやすいんだろうけど、あちらの世界の俺も寂しいんだろうけど、遠慮する。いまはまだけせないんだ

「縋ってばかりでごめん
 そろそろやめにするね、」


サヨナラヤカンの音で抜け出した。良かった、まだある、俺の過ごしていく部屋

(俺の今も、居間も、まだ手が届く範囲にないときっとバーテン服を身につけたガラの悪くてやたらとうるさい、大嫌いなあいつが来てしまうからね、ほら、いまもまっかな顔してるでしょ。)


「おはよう、シズちゃん」
 



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