定期券


改札を抜けるのと同じでごく自然にそばにいる事に気付くたった今午後5時18分。電車のドアが開いて閉じる同じ動作の繰り返し、慌てて手を引っ張られて駆け乗る同じ動作の繰り返し。繰り返しに終わりはこない、多分だけど、こないんじゃない?


「なんだかなぁ」

息を切らせてしゃがみ込む。俺はドアにもたれかかってずるずると落ちる、距離でいえばほんのわずか。それでも手は触れない距離で、「なんだよ」乗れたからいいだろ、そう言う彼はもう一度大きく息を吐いた。

「毎日毎日お前が時計見ねえからこう焦ることになってんだろ」
「それは別に関係ないよ」
「むしろそれが原因だろうが」

君が定期忘れたのも原因だと思うけど、これは絶対口に出さない。後々めんどくさいからね。ねえもしかしたら俺はいま楽しいっていえる?この何でもないいまが楽しいって思ってるのかな?振動が大きくなって前に押し出されて、髪を引っ張られるみたいに一気に引き戻されてガラスにぶつかる。シズちゃんはドアの部分に頭をぶつけてた。「馬鹿だね」「てめえもだろ」似たり寄ったり。

(分かんないや)
いくら考えても分からなかった、彼をどう思うかなんて今の日常のことなんて
(彼を好きか嫌いか、なんて)


彼の髪はきらきら光る、だなんて少女漫画も願い下げの可愛い表現なんかお世辞にも言えるわけなくて、そうだなどっちかっていうと、透けてるって感じかなあ。光るだけじゃ収まりきらなくて、奪われてくんだ。うん、誰に?考えるのをやめる。それすら願い下げだよバカ
頭の小さい痛みに蓋をして一言だけ口に出す、席は開いてても座らない。

「置いてかないで」


乗り遅れたらもう終わりでしょ、繰り返しは終わらない、でも繰り返しに遅れたらそれはもう違う繰り返しに乗るんだ、だから置いてかないで、そんな午後5時24分。
何より近い手の触れる距離には駅も何も、ないよ。繰り返すこの電車に乗り遅れたら、そしたらそれが俺たちの終わりみたいなもんかな


(怖かったりするんだ)

光に食われてく、君と
時間の戻せない、時計も

乗り遅れたい気がするから時計の時間を戻せないんだけど、いつだって邪魔するね。優しくない。でもちょっと君に引っ張られるのを待ってるのかも、だから戻さないのかもしんない、あああもうなんか、

(分かんない)



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