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7.


『えー、でも、彼女と別れたの勿体無いと思うよ。良妻賢母タイプの上品な子だったのに』

どうして俺の個人情報をそこまで把握しているかだなんて、もはやそんなことを聞く気力はなかった。名前を言い当て、学校に迎えに来た彼はなんと先日別れた彼女のことまで知っていた。

有無言わさずに連れ込まれたファミレスで、彼はステーキを食べながらにこにこしていた。

因みに、俺はコーヒーだけ飲んだら帰ろうと思っていたのに、飲み終わる度にタイミングよく新しい一杯を頼まれるから席を立てないでいた。もうこれで三杯目だ。これまでずっと雑談。

何をそこまで話すんだ、もっと真面目な話はないのか、と思うほどどうでもいい話だった。

『でも、君ほど格好良かったらさ、もっといい子捕まえられるよね。…それとも、』

ニヤリ、と彼の目が笑った。

茶髪の洒落たお兄さんだったのに、その目は獲物を見据える猛禽類そのものだった。

『君が欲しいのは女の子じゃなくてスリル?』

核心を突いた一言だった。

俺は何も答えなかった。なのに、彼は最初から答えが分かっているように満足そうに微笑み、ゆっくりとフォークとナイフを置いた。

その時になって初めて気付いたが、フォークとナイフを使う彼のマナーはそこらへんの若者のものではなく、洗練された一流の美しいものだった。

『そこでお誘いなんだけど、僕と同じ職業をしてみないかい?スリルは保証するよ』

引き込まれるような強い目。

『…どうだい?』

差し出された手。

この手を取れば、きっと彼は俺がずっと求めていたスリルを与えてくれるんだろう。だが、目の前のこの人の雰囲気は同じ世界に住む人間のものじゃないと、俺にも分かっていたんだ。

だが、それでも、

『あぁ、いいよ、よろしく』

俺はその魅力に抗えなかった。

『本当に?うわぁ、嬉しい。僕は深海伊瀬。伊瀬って呼んでいいからね。よろしく』

それが全ての始まりだった。

伊瀬と出会わなかったら俺は今も裏の世界に身を浸すことなく、陽だまりしか知らない表の世界で生きていたんだろう。そして、伊瀬も俺のくだらないミスで命を失うことはなかったんだろう。

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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。