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6.


期待、していなかったんだ。

なのに、次の日に彼が訪ねてきた。

帰りのHRが終わるのを見計らったような早くも遅くもない時間帯、鞄を持って教室を出た時、男女関わらず窓辺に群がって校門を見下ろしていた。女子は熱っぽい目で黄色い声をあげながら、男子は憧れの目で興奮したようにざわざわとしていた。

気になって、俺も校門を見下ろしてみれば、そこに彼が立っていた。

風に靡く茶髪は遊んでいるという感じではなくてとても上品なお洒落さがあって、眼差しは穏やかに待ち人を待っているのに、その目の奥に獲物を見定める鷲のような鋭さがあった。

あの人だ、と一瞬で分かった。

早いとか、なんで学校にとか、そんなことを思う暇もなく俺は裏口に向かって走っていた。

そして、裏口から学校を出た瞬間、

『君って頭いいよね』

それが彼が俺に話した一言目だった。

さっきまで正門にいた彼は今まさに俺の前にいて、硬直している俺に対して穏やかだ。

昨日の僅かな接触でも、廊下から見下ろした一瞬でも分かっていたが、近くから見るともっと格好いい。狙った安っぽい格好良さじゃなくて洗練された上品な格好良さだったが、猛禽類を相手にするような野性的で鋭い危うさが隠されていた。

それでも彼が怒りも警戒もしなかったのは、たぶん、俺がどれだけ抵抗したところで彼にとっては仔兎程度だったからなんだろう。

要は、圧倒的に格上の相手だった。

『お金に手をつけなかったのは偉いけど…、ちょっとお兄さんとお話をしようか、朝倉皓くん』

それが伊瀬だった。

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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。