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3.


「どうぞ、かけてくれ」

「お言葉に甘えて」

慧が加賀美に向かいあって、ソファーに腰を下ろした。普通の取り引きなら礼儀正しくするだろうが、迷わずに足を組むあたり、慧はやけに強気で加賀美を気に入っていないらしい。

俺は慧の斜め後ろに控え、立つ。

それを見届けてから、加賀美は再び座った。貼り付けたにこやかな仮面の奥で俺達を伺い、そして、息を潜めて機会を待っているようだ。

「ワインがあるが、いかがです?」

ソファーの間にあるガラスのローテーブル。

その上に置かれた細身の赤ワインはラベルから判断するに、フランスの有名なもので、芳醇で深みがあると評判の年のボトルだ。

だが、コルクが抜かれていない状態であっても薬が混入されている危険性があるため、視線のみで慧を制止しようとしたが、一瞬だけ俺を見た慧は口角を吊り上げて加賀美にこう答えた。

「では、話の後に頂こう」

内心、動揺した。

慧だって危険性を知っているはずだ。なのに…。だが、その動揺を加賀美に悟られてはならず、俺は静かにそっと慧に視線を流した。

それに対する反応はなかったが、慧なら間違いなく俺の視線に気付いたと思う。

「清宮様ならそう仰ると思っていたよ。私のお勧めのブランドのものなんだ。気に入ってくださると嬉しいんだが…、」

「あぁ、楽しみにしています」

「どうです、話の前に一杯?」

「それより早く終わらしてしまおう」

「…おや、真面目なお方だ」

加賀美はコルク抜きへと伸ばしかけた手を戻し、ソファーの肘掛けに置く。そのまま首を傾げて頬を乗せ、サラリ、と流れたくすんだ金髪の向こうの瞳が冷たく無感情に細まった。

その目は俺ではなく慧を見詰めていて、思わず加賀美の視線から慧を隠したくなった。

だが、そう行動するわけにもいかず、そして、加賀美まるでその考えを見透かしたかのように冷たく笑って、数秒だけ俺を見た。

「では、話を進めよう、清宮様」

その冷たい瞳はすぐに姿を隠したが。

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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。