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騙された者


それからは穏やかな時間を過ごした。

重要な仕事がないため夜の買収を優先して慧が会社を休み、ずっと傍にいてくれた。

ゆっくりと流れていく時間。二人揃って、誰かから電話がかかってくることもなく、こんなにものんびりとした時間を過ごしたのはいつぶりだろうか。…もし、互いにもっと時間を取っていれば、擦れ違いは起こらなかったのだろうか。

考えて、だが、やはりやめた。

考えても分からないし、穏やかで幸せな時間をただ甘受していたかった。

俺の体もだいぶ回復し、腰に鈍痛は残るものの夕方までには普通に歩けるようになった。そして、慧に助けられて執事の格好に着替えて、慧もスーツを着込んで播磨の迎えを待った。

「お迎えに参りました。清宮様、朝倉様」

約束の時間通りに部屋に来た播磨は、玄関先で背筋を伸ばして一礼した。コンシェルジュとしてやはり制服をきちんと着用していて、乱れも汚れもない。いつもの通り白手袋をしている。

「こんばんは、播磨様。お待ちしておりました」

笑顔を貼り付ければ返ってきたのはにこやかな、だが、事務的な表情だった。

「では、参りましょうか」

昨日と同じ道をたどる。

慧にとっては初めての道筋だ。一見、慧は普通に播磨の後に続いているように見えて、道筋だけでなく防犯カメラの位置とその範囲、セキュリティー、警備員の有無まで確認していた。

一般用のエレベーターのエレベーターを降りた先に、厳重なドア。このドアは昨日と同じくカードキーで開けていた。そして、播磨は銀色のカードキーを胸ポケットにしまった。

その先に専用のエレベーター。中を広く見せるために張られた鏡に見惚れたふりをして、視線を逸らしながら播磨の手元を見た。

000121。

エレベーターを出て、最後のドアが見えた。ここを開ければ加賀美がいる。ドアの前でやっと播磨は手袋をとって、人差し指で機械に触れる。

ピー、という電子音と同時に鍵が開く音がして、ドアが開きた。それを大きく開き、播磨は俺達に向かって深々と礼をした。

「どうぞごゆっくりと」

「あぁ、ありがとう」

一歩、慧が踏み出した。

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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。