「初めまして、ホテルのオーナーの加賀美高虎です。今夜はお会いできて嬉しい」
「朝倉でございます。加賀美様の貴重なお時間を頂けましたこと、感謝申し上げます」
そして、腹の探り合いが始まった。
「オーナーと伺いましてもっとお年を召された方だと思っていたのですが、まさか加賀美様のようなお若い方だとは…、驚きました」
「それは恐縮です。朝倉様こそあの清宮グループの御曹司様の執事だとか。毎日がハードなスケジュールでしょう?」
「加賀美様と比べたら全く…」
加賀美高虎。
28歳という若さにしてこの一流のホテルとカジノのオーナーであり、総責任者である。
ホテルを設立した多額の資金の出処は不明。裏カジノがあるから著名人とのコネはあるが、情報屋、特に格の高い情報屋との接触または定期的な交流は確認できなかった。
だが、確認できなかった、というだけで実際にはあると俺は推測している。
じゃないとこの若さで一流ホテルを立ち上げたことも、長らくカジノを警察の目から隠したのも、ましては伊瀬のシンボルを手に入れることだって到底不可能なんだから。
家族構成は両親と4歳年上の兄が一人。名家ではないが、なかなか裕福な家だ。といっても、ホテルを創立してからはあまり連絡を取っていないらしい。家族が関係している線は薄い。
カジノで得た巨額の利益から、総資産はもは計算できない。部屋の調度品一つ、ガラステーブルの上にあるクリスタルの灰皿一つからでさえ、札束が燃やされているのが分かった。
「さて、朝倉様、単刀直入に言うが、…カジノで勝ったチップの支払いのことなんだが…」
89億2,800万。
この男に払えない額じゃない。
だが、決してやすやすと払える額でもない。
この悪く言えば微妙な金額をどう扱うかが駆け引きを制する重要な鍵となるだろう。
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。