「ロゼ一本な」

「ちょ、は！？」

通り過ぎたスタッフにそう言う俺を見て、そいつは驚いた表情をした。ロゼだってそれなりに上等な酒だし、喜ぶべきじゃないんだろうか。

だが、その表情は喜びを押し隠した演技などではなく、本気で驚いていた。

「アンティ（場所代）だ」

「カジノじゃないんだ。そんな本格的にしなくても…。…言っておくが、ファーストベットもセカンドベットもなしだ」

「遊ぶなら本格的にしてぇじゃねぇか。で、お前のアンティは？ねぇなら、俺が勝った時の要求に上乗せしちまうが？」

「はぁ。好きにしろ」

本来、ポーカーはギャンブルの一種である。

ゲーム開始の前にそれぞれのテーブルでアンティ（場所代）を払うが、今回はチップを払う代わりにロゼを注文した。それなりに高いが、アンティを払う方法がないこいつに勝って、のちのち無茶な要求を押し付けようと思う。

因みに、チップとはカジノのみで使われる代用通貨のようなもので、それをゲームに賭け、最後に現金と交換する。言わばパチンコの玉だ。

そして、ゲーム開始前に行われる最初の賭けをファーストベットと言い、五枚のカードを配られてカードを確認した後に行われる二回目の賭けをセカンドベットと言う。

ベット（賭け）を行う時間をベッティング・インターバルと呼ぶ。

今回はファーストベットもセカンドベットも取り消し。その代わりに、ゲームの勝ち負けにワインと命令権を賭けてある。

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