3.
「そういやぁ、まだ何も頼んでねぇな。何かオススメとかあんのか?」
「全部オススメだから」
「いや、そこは絞れよ」
「じゃあ、こうしよう」
そいつは悪戯っぽく口角を吊り上げた。
色っぽい笑み。夜によく似合う笑みで、クラブの淡いライトに照らされて雰囲気を増すが、きっと明るい陽射しを浴びても綺麗だろう。
「ゲームをしよう。俺がゲームに勝ったら、俺が言うワインを頼め」
(なんだ、貢がせたいだけか)
そう思うと少し冷めてしまった。清宮という名前で俺の立場を知ったから、多少高い酒を頼ませても渋らないと考えているんだろう。
綺麗な見た目をしていたところで、興味があるのは客の財布の中だけなんだ。…いや、ターゲットを騙す俺も興味があるのはデータだけなんだから、本質的には俺も変わらない。
内心、鼻で笑ってしまった。
「じゃあ、俺が勝ったら?」
「お前の言うことなんでも聞いてやる」
これは随分と自信があるらしい。
「いいぜ?ゲームは?」
「ポーカーでどうだ?」
「はっ。俺は苦手じゃねぇけど」
「じゃあ、決まり」
ポーカーなんて慣れてる。仕事の付き合いで外国のカジノにも行くし、何よりこんな駆け引きのアマチュアに負ける気なんてしない。
なんでも言うことを聞いてくれるって言うんだから、清々しく圧勝して少し意地悪な要求を飲ませたかった。このイラつきも少しは収まる。
だが、このポーカーこそ今後の運命を大きく分けるとは、まだ思ってもいなかった。
[ 4/25 ]
prev / next
[ mokuji / bookmark / main / top ]