2.
「へぇ、リナさんからの紹介…」
そう言ったそいつは明らかに戸惑っていた。
当たり前だろう。立場を変えて俺がホストだとしても状況が飲み込めない。常連客が紹介した新規の客は何をとち狂ったのか男だった。
だが、さっと雰囲気を切り替えて、営業用の笑みを浮かべたのはさすがプロだ。
「初めまして、コウです。よろしく」
「清宮慧だ。慧でいいぜ」
俺の隣に座ったそいつの第一印象は、かっこいい、単純にそれだけだった。
染められていない黒髪は艶やかで、だが、地味な印象はない。涼しげな目元、少し伏せぎみの長い睫毛の向こうからしっかりとした強い目線が見据えてくる。とても深いブラウンの目だ。
形のいい唇は確かに色っぽい。だが、それはキスを強請ってくるような甘さだけではなく、油断すれば噛み付かれるような危なさもあった。
ホストのくせにシャツはそんなに大胆には開かれていない。なのに、黒いシャツに肌の白さが際立って、喉仏と角度によってチラチラと見える鎖骨が気になって仕方がない。
かっこよくて、綺麗で、色っぽい。
だが、それだけだった。
魅力的なのは認める。だが、こんな奴にターゲットを取られたのがひどく気に入らない。
「どうした。仕事で嫌なことでもあったか?」
(あぁ、あったよ。お前のせいでな!)
だなんて言えるはずもなく、無意識に浮かべていた不機嫌な表情を慌てて引っ込め、誤魔化すように頬を撫でてやれば濃茶色の目が丸まった。
「美人を前にして緊張していただけだ」
「…随分と手馴れているんだな」
「……まぁ、」
咄嗟に出てきた馬鹿馬鹿しい言い訳を信じてくれたかどうかは分からない。だが、その時に思わずといった風に笑った表情は、まぁ、綺麗じゃなくもなかった。…綺麗だったんだ。認める。
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