苺べりぃ


キン──…‥


金属の澄んだ音が校庭に消えていった。
そのあとから巻き起こる歓声を教室から京子は聞いていた。



「よし、あとは今日1日の感想だけ!」



真夏、夏休み前のこの時期は午前授業のみで特に感想といったものが浮かばない。
「う〜ん」と唸りながら書いては消して、書いては消してを繰り返す。




また金属の音が鳴り歓声があがる。今度は女子達の声も聞こえてきた。




カタン、息抜きとばかりに席を立ち窓から校庭を見てみる。
たった今ホームランを打ったらしい少年を見つけ自然に頬が緩む。




「……暑いのに凄いな」



純粋にそう思った。
「あ、また笑ってる」知らず知らずのうちに目で追ってしまうその少年に対し少なからず京子は友達以上の感情を抱いていた。




「私もあそこに行って応援できたらな……」そうは思うが大人しい性格の京子にはなかなか出来る事ではなく、たまにこうして教室の窓からその姿を眺めている。




ぼー…っとそんな事を考えていた京子がふと校庭を見ると少年の姿は無かった。



「あ…れ?いない………??」




──ガラッ



少年の姿を探していると不意に教室のドアが開く音がした。
音の方を向くとそこには



「あれ、笹川まだいたのか?」

「や、山本君…!!」


「あ、日直か?もう一人はどうしたんだ?」

「え、えとなんか、忘れちゃったみたいで帰っちゃった…」

「マジかよ!?ひでーのな。」


そう眉間に皺を寄せて言った山本に慌てて答える。


「そ、そんな事ないよ!!私今日は用とかないから、別に構わないよ!!」


「それに山本君と話せたから…」その呟きは相手に聞こえる事なく教室に溶けて消えた。



「それじゃあ俺が手伝うぜ?」


「え!わ、悪いよ!だって今部活…」

「あ゙……」


どうやら忘れていたらしい。
そんな少年を見て、また頬が緩むのを感じた。


「わ、笑うなって…」

ばつの悪そうな顔をしながらも微笑む少女をみれば自然とこちらも笑い出す。



そんな穏やかな時間はすぐに経ち、そろそろ部活に戻らなければならなくなった。


「やべ!!そろそろ行かねーと怒られる……!!」

「え!?ご、ごめんね!引き留めちゃったみたいで……何か用があったんだよね…?」


罪悪感に苛まれながら謝り問いかける少女にまた微笑み
「特に用があったわけじゃねーんだ、ただ…」

「?山本君?」


言葉を濁して頬をかく少年に疑問が浮かぶ。
心なしか頬が赤い少年に──……



「そのー…、あー、」

「どうかした…?」

「笹川が…、いた、から。」


「え…?」


「…教室に笹川がいて校庭見てたから、気に、なっちまって…」



それってもしかして…?

少女の心に淡い期待がよぎる。
自分に会いに来てくれた?
忙しい部活の合間に?



「な、なぁ。笹川、さ。今日急いで無いんだろ?」

「う、うん。そうだけど…?」


「これから部内対抗試合なんだ。それでホームラン打つから、絶対。そしたら聞いて欲しい事があるんだけど、…いいか?」



「……うん。」


「そっか!よし、やる気出てきた!!それじゃあここで待っててくれよな!」


パァッ、そんな効果音が聴こえてきそうな程明るい笑みを浮かべ少年はバタバタと去って行った。



期待、してもいいのかな…?
自惚れても、いいのかな…?


そんな考えが浮かんでは消え、浮かんでは消え、と巡っていた。


ドアを見つめ赤い顔を両手で押さえながら…




それから京子は窓際に移動してまた校庭を眺める。
山本のチームは順調に点を重ねる。


「………聞いて欲しい事って…なんなの、かな……?」


自分が期待している言葉だったらどんなに嬉しいか。
もしかしたらツナ君達の事かもしれない、嫌いと言われるのかもしれない、色々な考えが頭を過る。

だとしたら期待なんてしない方がいいのかもしれない。
だけどやっぱり予想を立ててしまう。


嫌な考えばかりが浮かび上がり不安になると、こんな事考えても仕方ないよね…、そう思い直し気分転換にと日誌の最後。
残っていた感想の部分を書き上げる。
さっきまで全然出てこなかったモノも必死になれば書ける事に気が付いた。




そして少し経った頃、外から大きな歓声が聞こえてきた。
その声につられて窓際に行ってみるとちょうど山本がホームランを打ったところだった。
その時、目があった気がした。
気のせいかもしれないけど京子にはあったように感じられた。
それからはすぐに勝敗が決まり結果は山本チームの圧勝。最後に山本の打ったホームランが決め手になったようだ。

「またホームラン……凄い…」と京子は呟いた。
そして数分後また教室のドアが開いた。少し驚いてドアの方を見ればそこには息を切らせた山本の姿が。


「──…ハァ、ハァ……。」
「だ、大丈夫!?山本君!!」


パタパタと小走りに近付けば「大丈夫」と手でそれを制されてしまった。

息を整えて顔をあげたと思うと山本は真っ直ぐに京子を見つめ一言、




「──……笹川、………好きだ。」





一瞬、時が止まったかのように思えた。
山本が何を言っているのか理解出来ずただ呆然と山本を見つめていた。


「え…………ほ、本当…に?」

未だショートした頭でようやく出した言葉がそれだった。
何度もそう言われたいと願っていたがいざ言われると混乱してしまうのは仕方がない事だと思う。


「…ああ。結構前から、ずっと……」



顔が赤くなるのが分かる。熱い。

「あ…………えと、私……」

「笹川はツナが好きなのか…?」

「え……?」


いきなり山本は何を言い出すのだろう。確かにツナ君に好感は持っている。だけどそれは【友情】であって恋愛的なものではない。


「なんで…?」

「あ、いや、何でもねーけど…」


ないけど、何…??
私が好きなのは山本君だよ??



「違う!!」

「笹川?」

「わ、私、が好きなのは山本君だよ!!ツナ君も好きだけどそれは友達としてであって、…本当に、大好き……なのは、山本君だから!!だから…………そんな事、言わないで……」


言ってから自分はなんて事を言ったのだろうと少し後悔した。
あまりにも予想していなかった山本の言葉にかっとなってしまった。


「笹川……………」

「ご、ごめん、私………」


恥ずかしくて悲しくて今すぐ帰ってしまいたい。
走り出すと腕を掴まれてそのまま周りが真っ暗になった。




「(え……………??)」


すぐ近くに速い鼓動を感じる。



「笹川、それ………本当…?」

いきなり頭上からかかった声に緊張しながらも京子は答える。

「え!あ、うん…!!」


それを聞くと幾分か腕の力が弱まった。おずおずと顔を上げてみるとそこには真っ赤になって固まっている山本の顔があった。

「山本…………君…??」
「え…………あ、……えぇ??!!






──……ヤベェ、









スッゲェ嬉しい。」


そう言った山本の顔は照れながらいつものはにかんだ笑みを浮かべ夕焼けがとても似合っていた…




















それから私達は付き合う事になって、毎日…………とはいかないけど用の無い日は私が山本君の部活が終わるのを待って一緒に帰っている。学校ではあんまり話せないし……。

そんなちょっとの時間が嬉しくて、幸せで…私は凄く好きだと感じた。












苺べりぃ


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