恋だと気付いたその先に、
「あら、お1人ですか?」
「ああ、」
スナックすまいる、いつもは上司らの後始末に来る以外では訪れたことのない場所。
そこに今、自分は私用として来ている。
「またゴリラが?」
「……いや、違う」
「まぁ、珍しいですね。じゃあ今日はあなたが私を指名してくれたんですか?」
そう問われた途端に恥ずかしさが込み上げてきた。
キャバクラなんて腐る程訪れている、別に、慣れていない訳ではない。だけど何故か今は、すごく、穴があったら入りたい。
「ふふ、ドンペ」
「待て待て待て。」
「頼んでくれますよね?」
「っ、い…や……、はい。」
そう言い負かされて早くも財布が軽くなった。
まぁ、金ならそれなりにある。
今まで使い道が無く、ただ貯まっていく一方だったから。
「それで、土方さん」
「あ?」
「もう一本いかがです?」
「……まだ、いい。」
それより、と話を切り出せば彼女は一瞬驚いた顔をして、でもすぐにいつもと変わらない笑顔に戻って、先を促した。
「…志村妙、16歳、10月31日生まれ。得意料理は卵焼き…、土方さん、私も知りたいです。あなたのこと。」
「は…?」
「あなただけ私を知ろうなんてずるいじゃないですか。だから、私にも教えてください。」
ずっと知りたかったんです。
そう聞こえたのは幻なんかじゃない筈だ。
にこりと微笑むこの女に、一体何人の男が魅せられたのだろう。
俺も、例外ではない。
「……教えてやるよ、なんだって。アンタの知りてぇこと全部。」
そしてそのまま閉店時間まで2人で話した。
他に指名されてもすぐに戻ってきた。
それが嬉しくて、俺は酒の力なんか借りなくても饒舌に話した。
閉店後は裏で待ち、2人で並んで歩く。その間もずっと話続けていて、それでも会話は途切れなくて。
彼女は職業柄か聞き上手で、素なのか話上手で、この時間はとても満たされた。
「土方さん、ありがとうございます。」
「いや…、じゃあな」
「土方さん、」
「あ?」
「…また、会いに来て下さい。」
「…おう、」
それは店に?それとも…、
そんな中2みたいな妄想を抱きつつ帰路を歩む。
頬の筋肉はまだ、しまってくれないようだ。
屯所について床についても、この気持ちの昂りは治まらない。
ああ、そうか。初めて出会ったあの時から続くこの胸の痛みは…、
恋だと気付いたその先に、
(お妙さぁぁ、ぶへらぁっ!)(……、)(あら、土方さん)(…よぉ、)
090805
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