知らない。
がたん、と家鳴りが1つ。
真っ暗な部屋に蹲る。どくんどくんと鼓動の音がやけに耳につく。小さく息を吐き、目を固く閉じる。浮かぶのは憎らしいあの男。
(まだ…、残っていやがる。)
自分の服についたその匂いすら憎らしくて、握る手に力が籠った。
「総ォォ悟ォォオ!!!」
「…げ、」
「てめぇ…!!何サボってやがんだ!!」
「うるせェや土方コノヤロー。死んで下せェ。」
そうして爆音が木霊する。いつも軽々と避けて、向かってくる。舌打ちを1つ、そうして保たれていた距離。
それが、いつからか崩れていた。
気付いてなかったのは、きっとお互い。
「オレは、好きですぜィ。」
「…うっせ。」
「…土方さん」
「……っ、うるせェ!」
耳まで真っ赤に染めて、怒鳴るあんたが可愛くて。
抱きしめられたその腕の中、オレが笑ったのはきっと気付いちゃいないんだ。
確かに触れていた。
確かに感じていた。
確かに、そこにあった。
それなのに、この漠然とした不安感は、大きくなるばかりで。わからなくなる。
いつも決まってあの人の命日に、オレは違和感を感じるんだ。
ふとした、例えば煙草を吸う仕草とか、瞬間に落ちる空気。
怖い。あんたが、いなくなっちまうみたいで。
抱きしめても、どんなに強く抱きしめても、隙間から消えてしまいそうで。
「ねぇ、土方さん。」
「あ?」
「…あんたが見てんのは、誰ですかィ?」
「は…?」
「姉…上に、似てるから……ですかィ?あんたが見てんのは、本当に…オレ?」
「!!」
答えを聞くのが怖くて逃げだした。
オレがそう言った時のあんたの顔が浮かんでくる。
しゃくりあげる声が続く。みしりと歯が軋んだ。
こんなにも弱いオレを、きっと見限る。
そんなことを思う反面、あんたなら追いかけて来てくれる。と、期待する自分がいる。
ああ、本当に、醜い。
でもそんな自分が嫌いではないと、思う自分は狂っているのだろうか。
知らない。
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