雨童に魅せられた日
君はまた、向こうへ行こうとするのか…
庭石には数多の雨粒があたり弾け、消え行く。
ニャア、と縁側で石榴が鳴く。
同じく縁側で一人の男が石の様に座していた。
「………………………………………………………」
「……………………いい加減にしてくれよ」
反応はない。
この男は何かある毎にこうなってしまう。
自分の存在を否定し悲観し消えようとする。しかしいつでも独りでいようとしないのだ。僕の知る限りではの話だが。
「……………君は本当に馬鹿だな。大馬鹿野郎だよ。」
──何を独りだと思うのだ?
「…………君はそんなに向こう側に行きたいのかい?」
──こんなにももがいて足掻いているくせに
「……………君はわからない男だね。なんだってそう思い詰めるんだい」
──そんなに小さく丸まって
「……………おい、」
──…戻ってこいよ
雲がきれる。
微かな日光が僕から、君から、影を作る。影がのびる。
僅かに音が聴こえた。
否、声が聴こえたのだ。
「────……ぅ」
「はっきり物を言えよ。」
「──……きょう、ご…くど」
「………なんだい、喋れるじゃないか」
「──…京極堂、ぼくは…ぼくはまた…」
「また彼方に行こうとしていた。」
「………そうか。」
「ああ。もう戻ってきたかい?」
「…………どうだろう…僕は、戻ってこれたのかな……また、行きそうだ…」
「………そうか。全く、本当に手の掛かる奴だな。何回行けば気が済むんだ?僕はもうごめんだぜ?君を引き戻すのなんか」
「……ごめん」
「…………君は、何故行くんだい?」
「…………それは、」
───僕はおかしいみたいだ。
──僕は、君が…
雨童に
魅せられた日
(僕はここにいたい…まだ、ここに…)(迷惑な奴だね君は。)(でも、今日は千鶴子も留守だからね、)(──…ありがとう)
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