我が愛しい人よ


骸と白蘭との戦いから数日が過ぎた。まだ骸は目覚めない。

(そういえば…今日は正チャンがボンゴレアジトへ突撃するんだったっけ……)


白蘭はふと彼の神経質そうな焦り顔を思い出し小さく笑った。

静かに骸の眠るベッドに近寄り骸の髪を掬い、己の指に絡める。



「………そろそろ起きないと、襲っちゃうよ?……レオ君…」




くつりくつりと自分の発言に笑う。


目の前にいるのは骸なのに、
彼のあの可愛さは憑依した、ここにいる彼の可愛さもあるのか…と、可笑しさが込み上げてきた。







「……………ぁ…」

「……、起きた見たいだね。」



眠り姫は僕を瞳に捕らえた瞬間眉を寄せて静かに拒絶を吐いた。



「…………何の、…つもりですか………こんな事を…」

「君を助けた事かな?なんのつもりもかんのつもりも、僕は君が好きだから…。だから命はとらなかった。」


「───…っ!……虫酸が走る。」





──ミシリ。



高そうなキングサイズのベットが軋む。





「っ…………なんの、つもりです…」

「だからね、僕は君が好きなんだよ…」




ギシギシとスプリングが悲鳴をあげる。


「───っ…くぁ、」

「君は、耳が弱いの?」

「───!!!……何を、馬鹿な事………っ、ぁあ」




白蘭の舌が耳を、頸を、唇を這う。



「くっ………やめっ、…くぁ…!!」




整った彼の胸にぽつりぽつりと深紅の花弁が飛散する。
真っ白な肌に散る花はまるで雪の下、寒椿を眺める心地だ。



「……綺麗だね。」

「──…!!うる、さい……」

「とんだじゃじゃ馬だね、」


「くはっ……僕が?……ですが…それも、いいですね…」


額に在る汗の粒が光る。うっすらと微笑む彼は勝算等ある筈がないのに、この顔を見るとまるでここからするりと居なくなってしまうように思えるから不思議だ。






「……今日は、ここまでにしようか。また、遊ぼうね」



そう言えば彼はまた眉間に皺をよせる。



本当に彼はここから居なくなってしまうように思えた。
儚いのではない、朧なのだ。


何処へも行かない、けれどここから消えてしまう。





「それは、厭だな。」

「……?」

「だからね、決めたよ。君は鎖で繋いでおく事にするよ。……これで居なくならないよね…?」

「……………。」





───カシャン、




細やかな細工の施された銀の手枷と、同じく銀の首枷を骸に施す。その一連の動きは壊れ物を扱うかの様にゆっくりと優しく、静かだ。




「それじゃあまた明日ね、──…レオ君。」


「──…っ」













パタン、と閉じられた豪奢な洋扉を憎々し気に数秒間見つめ、諦めた様に視線を天井に向ける。否、天蓋と言った方が正しいだろう。






「───……ボンゴレ…」









彼の紅と蒼の瞳が視るのはこの街の何処かに居るであろう唯一慕う者の幻影。





(───…Arrivederci、)





我が愛しい人よ

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