定例会

「おまたせ、凪」



彼女の名前を呼べば凪は安心したように頬を緩ませた
普段はクロームって呼ぶ所だけど、ここでクロームなんて名前は目立ってしまうから今日だけは我慢。


月に一度の定例会
いや、定例会と言うよりも…色かえ薬を受け取るための場で人数も2人だけれど

あまり奥まったお店でするのもそれっぽすぎるからと表の通りにある比較的どの時間でも混んでいる人気のBARを指定した



席について、まず初めに薬を受け取る
中々に重いんだよね、これが





「いつもありがとう、変わりない?」

「…うん、変わりない、よ
かりんはどう……?」

「私の方もそこそこ落ち着いてるよ」




お互いに近況を話し合ったり、どうしても私が目を通さなきゃいけない書類を受け取ったりとしていれば
BARのガラス扉の向こうに見知った容姿の男を見つけた





「…、まずい
組織の幹部がお店の外にいる」




凪は後ろの扉の方を振り向かずにグラスに視線を落としたまま小さく反応する





「…逃げるように出ていくのも変だから暫く飲もうか」

「飲みすぎないように、ね…?」

「ふふ、分かってるよ」




バーボンが開けた扉から1人の女性が店内へと入ってきた

目を引く金髪に一瞬ベルモットかと思ったけれど全然違った、組織の人間ではなさそう

育ちの良さそうな顔をした華やかな女性
ターゲットの令嬢って所かな。
それともバーボンの私生活での知り合いなのか。



2人は私たちの隣を通り過ぎて奥の席についた
私からは見えない位置。





「何かあったら知らせる」

「お願い」

「結羅、きちんと食べてる…?」




クロームは2人を一瞥してすぐになんでもないように私に話題を振った




「もちろん、前よりはちゃんと食べてるよ
まあ…栄養を考えて食べてるかと聞かれるとなんとも言えないけど…」




でも前よりは!と言えば 凪は綺麗に微笑んだ

まだ自炊はしてないけれど流石に筋力の衰えを感じた私は近くのお弁当やさんで昼夜を済ますのが日課になった




「みんな、心配してる…」

「ご迷惑おかけしてます
これからはちゃんとしてくから安心して」




少しの間なんでもない話をして席を立つ
もっと話していたいけど、長居をするわけにはいかない



「お開きだね」

「かりん、早く帰ってきて…」

「うん、ボンゴレに戻ったらまたたくさん遊びに行こうね」




それまでに行きたいところをピックアップしておこうと言えば凪は静かに頷いた

この約束が果たされるまでに何年かかるか分からないけれど…




「タクシー呼ぶ?」

「ううん、少し暑いから歩いて帰りたい気分なの
荷物はちょっと重いけど」


「…大丈夫?
暑いって…酔ってるでしょ、それに家まで少し遠いって…本当に帰れる?」


「ふふ、大丈夫。心配されるほどはよってないよ
凪の方こそ気をつけてね」




手を振って暗くなった道を歩く

暗くなったって言っても所詮表通り、こまめに設置された街灯のお陰でくらいはずの道は明るく照らされている。


体内に溜まった暑い空気をため息として吐き出せば、途端に現実の世界に帰ってきた感じがする


家に一人でいることにも慣れたと思ってたけど、ファミリーと会うとあの頃を思い出すなあ

家に帰れば必ず誰かは居て、一人でいることなんてほとんどなくって…
自分で望んで潜入捜査をする事になったんだけど、やっぱり寂しいものは寂しい。


頭を振って気持ちを落ち着かせていると隣に最近覚えた白のRX-7が止まった






「こんばんは、アリス」

「バーボン…」




車から出てきたのは案の定バーボンで
彼はいつも通り薄く微笑んで、どうぞと助手席の扉を開いた

今は一人になりたくなかったからちょうど良かった
大人しく乗り込んでバーボンのどちらまで、という声に家の近くの公園を指定した




「先ほどフラフラと帰っていく姿が見えまして
僕達もお開きにしようとしていた所でしたので…あなたに仮を作っておくのもいいかと思いましてね」





バーですれ違った時に私たちを見なかったから気が付かれてないと思い込んでたけれど…




「私がいるって気がついていたのね、あなたちらりともこっちを見なかったから…
所であのお嬢さんは?」

「彼女はとあるご令嬢でして…家から迎えが来るそうです。
僕が送り狼になると行けないから迎えにいくと…信用されていると思っていたんですがまだまだ足りたいみたいです」




肩をすぼめるバーボンは可笑しそうに口元を緩めた

お店で見た感じから察するに令嬢はすでにバーボンにぞっこん、と言った感じだったけれどターゲットである親は案外しっかりしているらしい。




「見るからに箱入り娘って感じだったもの
きっと大切にされてるのね」

「そう言うアリスは任務、という感じてはありませんでしたが」

「ええ、プライベートよ」

「通りで随分と砕けた話し方でしたね」




あちらが本当のアリスなんですか?というバーボンの問いかけにドキリとした
内容に気を使って話していたし特に聞かれたくない話をした覚えはないけど、なんとなく。





「話聞こえてた?」

「いえ、通り過ぎた時に少し聞こえただけで内容までは」

「ー…そう」

「なにか聞かれてはまずい話でも?」

「いいえ、ただ組織の人間は誰も信用していないからプライベートなことは知られたくないだけ」




バーボンも同じような考えを持っていると思っていたんだけれど彼の横顔を盗みみれば感情が読み取りにくいほほ笑みを浮かべていた




「…そう言えばまたツーマンセルの任務が入ってたわね
ジンは私とあなたのペアで固定するつもりなのかしら?」




ジンとウォッカ、キャンティとコルンと言うふうに組織内にペアが多いのは事実。
バーボンはベルモットと組んでると思ってたけど最近2人での任務は減り、代わりにアリスとバーボンがペアになることが多くなったらしい





「そうなのかも知れません
僕としてはそうしてもらえると有難い。」




アリスとの任務はやりやすい。
そういう彼に同意する、確かにバーボンとの任務は無駄がなく楽であることに違いはない。




話をしていれば目的地につくのは一瞬で、
近くの公園の駐車場でバーボンの車を降りた




「アリス、忘れ物です」

「あ、ええ。ありがとう」




危ない、バーボンの車に色変え薬を忘れるところだった…

見られただけじゃ何かわからないから大丈夫だけど、検査にでもかけられたら困るもの












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