意外

「結羅お姉ちゃん!」




最近聞きなれた少年の声に頭を抱えそうになった
今一番会いたくない人物のナンバーワン…


気分転換も兼ねて歩こうと街に出たのが間違いで、車を出すべきだった。
そもそも今日ベッドを買いに行こうとしたこと自体が間違い。


観念して声のするほうを見ればそこには…ほら、やっぱりコナンくんの姿が…
ギラつく瞳から察するに、やっと見つけたぜ逃がさねぇよって感じかな
ああ、きっと蛇に睨まれたカエルってこんな気持ちなんだろうな…と若干の現実逃避をしつつ


邪険にするわけにも行かず(しようとも思わないが)かりんは笑顔でしゃがんでコナンと目線を合わせた





「コナン君久しぶり、もう怪我は平気?」


「うん!僕は擦り傷だけだったから
結羅お姉ちゃんはどう?
僕達を庇ったからかなり怪我してたよね…」


「心配ありがとう、でも私は全然大丈夫
私も擦り傷ばっかりだったから一瞬で治っちゃった」





実際は了ちゃんの晴れの炎で治してもらったんだけど
治癒能力はほんとに便利だよね、私も晴れの炎の能力が欲しい


そう言えばバスジャックの後日受けた事情聴取でも結局コナンくんと会うことは無かったから彼と会うのは私が口をつるんと滑らせたバスジャック以来ってことになる

きっと私の正体を考えながら悶々とした日々を送ったに違いない






「ぼくね、二人っきりでお話がしたいんだぁ」

「うん、もちろん
確か近くに公園があったよね…そこで大丈夫?」





見つかった瞬間からこうなることは予想していたし快く了承してコナンくんを抱き上げ公園に移動する


でも私から公安だと名乗ることは出来ないしどうしようか
なんて誤魔化せば納得してくれるのかな




昨日の夜に降った雨のせいで遊具が未だに湿ってる公園に子供は少なくて内緒話をするには最適で
少し湿ったベンチに腰をかけて途中で買った缶ジュースに口もつけずにじ、っと私を見上げるコナンくんを私も見つめる


恭弥から送られてきた新一くんの幼い頃の画像と目の前のコナンくんを改めて脳内で照らし合わせるけど、メガネがあるだけで随分と印象が違って見えるな


暫く続いた沈黙を破ったのはコナンくんだった





「結羅お姉ちゃんって…悪い人の敵なんでしょ?」

「え?」





すっかりなぜ俺の正体を知っている、的な始まりを予想していた私は思いもよらないコナンくんの言葉に"へぇ?"と間抜けな声を出してしまった

確かに私を"悪い人"と判断する材料は特にないとしても"いい人"と判断する材料も同じくないはず
1度助けられたからいい人だと、悪い人の敵だと判断するほど彼の思考回路は単純じゃないと思ったんだけど





「どうしてそう思ったの?」

「俺の正体を知っている様な発言から連中の仲間だと考えたんだけど…」





小さく呟かれた一人称も話し方も声のトーンもガラリと変わったコナンをぼーっと眺めながら
…小学生の声帯でもこんな低い声が声だせるんだとかりんは相変わらず斜め上のことを考えていた





「へへ、ぼくお姉さんが公安の人とお話してるところ見て聞いちゃった、それも2回も。
ある事件の調査のために公安のおじさんに盗聴器をつけてたんだけど…」

「盗聴器?」




まったく盗聴器なんてどこから仕入れてくるんだか…それよりも盗聴器つけられて気が付かない公安って誰だ…
ほらこの人だよ、と見せてくれたコナンくんのスマホにうつっていたのは…風見さん…!




「この人に付けた盗聴器からかりんさんの声が聞こえてきたんだ
ずいぶん親しそうにお仕事の話をしてたね」




録音もしてあるよ、とにっこにこのコナンくんに口元が引くつく

…実は高校生って言うのも嘘なんじゃない?






「それにバスジャックの時に既に考えてたんだ、結羅さんはもしかしたら一般人じゃないのかもって
犯人に銃を向けられた時も、爆弾のタイマーが作動した時も怯えたりせずにすごく冷静だったでしょ?
加えて爆発の時の身のこなし…」


「あの時は眠たくて脳が正常じゃなかったから冷静になれただけで、受け身だって昔に格闘技を習ってたから取れただけだよ」

「それに灰原が事情聴取に連れていかれないように自分の血をつけて病院につれて言ってって高木刑事にお願いしてくれたでしょ?
そういう事って普通すぐには考えつかないよ」

「彼女があまりにも……なんて、
録音までされてるんなら反論したって無駄かな」




笑いながら降参という風に手をあげればコナンくんは少しだけビックリしたというように目を開いた




「もう少しはぐらかすかと思ってたぜ…」

「私もコナンくんの重大な秘密を握ってるんだからそう簡単に私の秘密を話すような真似は出来ないでしょ?」

「あぁ、そんな事しねぇよ…」




私が公安ですよって教えたわけじゃないからセーフだよセーフ。

初めに口をすべらせたのは私だけど、公安のルールは破ってない!




「でも問題はどうやって俺の情報を手に入れたかってことだ…俺がこの姿になっていることはごく一部の人間しか知らないはずでその証拠を掴むのはいくら結羅さんが公安だからって限りなく不可能に近いはず…」


「まあ、ほらね?
それは公安じゃなくてさ、大企業の権力を使えばそこらへんはチョチョイのチョイって
あ、でも安心して。
すっごく信頼できる人に調べてもらったからこの情報が他所に漏れる心配はないよ」

「会社の権力使ってプロに調べさせたのかよ…」




権力ってコエー…と今度はコナンくんが顔を引くつかせた
そりゃボンゴレ…と言うかあの場合は風紀財団だったけど、にかかれば一般人の情報を集めるなんて造作もないもの



「ゲームセンターの時といいバスジャックの時といい…小学生にしては不自然なところが多すぎてそりゃ調べたくもなるよ
逆にどうして周りの人達が不審がらないのか不思議なくらい」

「あはは…」



「ま、なにか困ったことがあれば頼ってね
力になるからさ」





お姉さんが助けてあげる、頭を撫でると少し顔を赤らめながら子供扱いすんなよな、と口を尖らせた




「ひとつ聞いてもいい?
コナンくんはどうして小学生の姿に?」





私が聞きたいのはアポトキシン4869を飲まされた、と言う事じゃなくて
どうして毒薬を飲まされることになったのか、という経緯なんだけど彼は答えてくれるだろうか





「それはー…」




コナンくんが口を開いたその時、空気を読まない私の携帯がなった

…バァーボン…タイミング。


よし、無視しちゃえ
今はそれよりコナンくん、と通訳を切る方向へ指を滑らしたけど彼からの電話がスグにかかってくる…出るまでかけ続ける気だな…





「ごめん、用事入っちゃった…お話はまた今度聞かせてね
私の携帯番号教えておくから!いつでもかけてきていいから!」

「え、おい!」




常に持ち歩いているボンゴレカンパニーの名刺をコナンくんに握らせて早足で公園の出口へと向かって盗聴器の類が仕掛けられてないか素早くチェックして通話ボタンを押した





「Hi,」

「遅い」




電話に出て間髪入れずに紡がれた言葉に思わず溜息をつきそうになった






「あのね、私も暇じゃないの」

「新しい任務です、次の土曜日ー…」

「…了解」









後書き

公安であることを特に隠す気のないかりんちゃん
そして風見さんには早めに盗聴器付けられてもらいました…笑本人は気がついてない。








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