しかし実際そう上手く行くはずも無く、かりんは強い痛みで目を覚ました
「っ、たー…!!」
急ブレーキがかかったらしく力が抜けきっていたかりんの体は自動車事故の衝撃テストに使われる人形のように衝撃の力に素直に従い前の座席でおでこを強打したのだ。
予期せぬ痛みにおでこを抑え悶えている間にもバスは横向きにスリップし、トンネルを抜けたあたりで停車した。
そこからは一瞬でかりんの痛みが引いた頃には全てが終わったあとだった
流れはこうだ、コナンが座席から飛び出して時計から何か針のようなものを噴射して犯人の一人を倒し、それを見たもう1人の犯人が銃を構えるがすかさずジョディが膝蹴りを御見舞する、腹を蹴り挙げられてもまだ意識のある図太い犯人がジョディに銃をむけるがそれはバスジャック序盤にジョディがセーフティをいれた銃で引き金は引けず
犯人の仲間だった一番後ろにいた女の人もベルモットに確保され…こうして犯人達は全員呆気なく制圧されて一安心…といきたかったにどうして今日はこんなにもついてないんだろう
「はぁ?ああー!!
逃げなきゃ、早く逃げなきゃああ!
いい今の急ブレーキで時計をぶつけて起爆装置が動き出しちゃったのよ爆発まであと一分ないわよー!」
犯人の仲間のひとりの悲鳴のような声にホッとした空気が流れ始めていた車内にまた緊張が走る
一分ないって…もう少し余裕持たせた時間にして欲しかったけど今グチグチ行ったって何も変わらない
かりんはまだ眠いと愚図る自分の脳みそに活を入れた
「みんな、早くそれを置いて立って!
逃げるよ!」
爆弾であろうスキーケースを持ってオロオロとする子供たちを立ち上がらせ出口に誘導すると周りの乗客たちもハッとして急いでバスの出口に向かう
無事にかりん自身もバスを降りて少しでもバスから遠くへと走る途中ではっと気がついた
「カバン…!!」
バスの座席に残したまんまだ!
取りに戻らないと書類は兎も角あの中には変色薬が…
カバンを忘れた使えない自分に舌打ちをして、ぐるりと方向転換をした
あと何秒残ってるかな…でも最悪爆発しても私1人なら何とかなるか…そう考えていたんだけど…
「哀ちゃん!?」
バスの中には赤いフードをかぶったまんまの哀ちゃんが俯いて座席に座っていた
汗と震えは既に止まっていて妙に落ち着いている
「早く逃げるよ!」
「放っておいて!」
私の手を振り払う哀ちゃんの瞳には強い意志が宿っていた
こんな所で爆死を望むなんて彼女もまた何かワケアリな人間らしい。
って、今はそんな事考えてる場合じゃなかった
あと少しで私も彼女も木っ端微塵か焼けただれてしまうんだから何も迷っている暇はない
組織の人間に殺された、ならまだしもバスジャックの爆弾に巻き込まれたなんて天下のボンゴレ幹部として少し恥ずかしいもの
未だ拒否する彼女を無理やり抱き寄せ、彼女を助けるためにたった今ガラスを割って戻ってきたコナンくんも素早く抱え彼が入ってきたばかりの後部座席の窓ガラスを突き破り外に脱出する
それと同時に起こる爆発に子供を抱えた私の体はいとも簡単に吹き飛ばされて硬いアスファルトの上を転がった
「いぃ…っ」
…2人抱えての受身は思ったよりも取りにくくて至る所に痛みが走ったけれど嫌な音は聞こえなかったから骨折はしてないはず…
今回はそれだけで上出来だ。自分に拍手を送る
「結羅さん!」
「いて、コナンくん生きてるから揺すらないで
ふたりとも大丈夫だった?」
私を揺するコナンくんの手をやんわりと退けてその場に座る
私を見る哀ちゃんの瞳には、絶望、困惑…とにかくいい感情は入ってない
…死にたかったのに助けちゃったんだから当たり前か
「どうして…!」
続く言葉はどうして、"助けたの""死にたかったのに""放っておいてほしかった"ってところだろう
マフィアになって何十、もしかしたらもっと沢山言われた言葉だから先なんて容易に想像できる
「哀ちゃんのことよく知らないけど、もし何か困ったことがあるなら力になるよ
私、こう見えても頼りになると思うんだ」
それでも、もし私に頼ってもどうにもならなくて死にたいと思うんだったらその時は私が殺してあげる、今日のお詫びってことね。
彼女の耳元からそっと口を離せば驚いたように瞳が見開かれていて。
「あなたは…一体…」
少し警戒心を含んだ瞳が揺れる
「A secret makes a woman,woman.」
それっぽくウィンクをしながら人差し指を唇に開けた、パクリだけど。
そして素早く哀ちゃんの足に私の腕から流れる血をつけて近くの警察の人を呼ぶ
「すいませーん!この子たち怪我してるみたいで病院に連れて言ってもらえます?
事情聴取は私が受けるので」
事件中大半は寝ていたからそんなに話せることはないけれど今ここを切り抜けられたらそれでいいと適当に嘘を並べれば純粋な人なのかすぐに信じてくれて博士やほかの子供たち諸共連れていってくれるらしい。
あー、彼は高木刑事
確かゲームセンターの事件にも彼はいた気がする
私の痴漢の話もすぐに信じてくれた人だ
「あ、待ってコナンくん!」
「どうしたの?」
高木刑事の車に乗り込もうとするコナンくんを寸でで止めてポケットにしまったはずのものを探る
「あったあった」
ポケットから取り出したのはいつぞやにコナンくんが没収されていた変な形の通信機みたいなもの
逃げる前に袋から飛び出していたから、回収しておいた
「わあ!ありがとう!!」
「どういたしまして、でも今日みたいな無茶はだめだよ?
今の身体は子供なんだからね?」
目を大きく見開いたまま固まったコナンくんは高木刑事にひょいと持ち上げられて車に乗せられた
かりんはまだ自分がやらかしてしまったことに気がついていない。
高木刑事の車にばいばーい、と手を振りながらようやく、やっと、自分が犯したことに気がついた
"今の身体は子供なんだからね"
サーッと血の気が引いていくのがわかった
なに口をすべらせてるの?今日は厄日だ、それもこれも全部寝不足のせい。
案外バスジャック自体が私のゆめだったのかも、そうだ覚めて今すぐ覚めてと頬を引っ張ってみたけれど夢は一向に覚めてはくれないー…当たり前だこれは現実なんだから。
「ほんと最悪…。」
かりんのテンションが地の底まで急降下している途中後ろから肩を叩かれた
その時にさっき痛めた所がかなり痛んだけれどそれを悟られないようにぐっと一呼吸置いてから振り返るとそこにいたのは興奮したジョディ
「oh!かりん!
がらすを割って二人を助け出すなんてまるでジェームズボンドです!」
「OOセブンはジョディのほうでしょ?
トカレフの安全装置入れたり膝蹴りしたり…ふふ、惚れちゃいそうだったわ」
「yes,かりんなら喜んで受け入れマス!」
ばっと両手を広げて私を受け入れる体制を作ったジョディは人懐っこい笑顔を浮かべてる
「乗客の皆さん、事情聴取があるので車に乗ってください」
「あ、私達も行かなきゃ」
「そこらじゅう傷ダラケですケド大丈夫デスか?
あなたこそ病院に行くべきじゃ?」
「このくらい何の問題もないよ」
はやく乗ろう、とジョディを急かして車に向かうけれど女の刑事さんに止められた
「ちょっと、あなた怪我が」
「あ、大丈夫です。」
「だめよ、先に病院に行きましょう」
「ええ、あの…」
ジョディに見送られ佐藤刑事の車で病院に強制連行される
こうして私も後日事情聴取組の仲間入りをしたわけです。