…やっと書類の山から解放された私と風見さんはのろのろと外に出て久しぶりに外の空気を吸い込んだ
最近はずっとガラス越しにみていた太陽はいつもより輝いているように見えた
「太陽が…眩しい!」
結局自分の徹夜記録を更新することは無かったものの三徹。
三徹もすれば流石にしんどい…
けれど何が一番辛かったって、一日三食最近まともな食事を与えられたことだったと思う…。
風見さんや深山さんの監視により強制的に三食きっちり栄養バランスを考えたお弁当をとらされたんだけど、最低限の食事しかしていなかった私の胃がすんなり受け入れてくれるはずもなく…でも食べ終えないと書類を触らせてもくれない鬼が2人いて…それはもう地獄だったな
「あー…バスかタクシーどうしよ」
時計を確認すればバスの到着時刻よりちょうど五分前くらいで、タクシーを拾いに大通りで突っ立てるよりバスで帰った方が良さそうだとかりんは判断した
「沢田お前車じゃないのか?」
「はい、徹夜明けの運転なんて事故する自信しかないので車は置いてきました」
「家まで送るぞ」
「いえ、風見さんも早く帰って…休んでください
ちょうどバスがくる時間なんで、お疲れ様でぇす…」
上司の返事を聞く前にバス停に向かい始めるかりんを心配そうに見送る風見。
彼女の足取りはふらふらとしていて、まるで生まれてまもない動物のようにとても頼りないものだった
「お疲れ。気をつけろよ…」
並んで直ぐに来たバスは比較的空いていて、これならば座れそうだとほっとしてフラフラと空いてる席に向かう
今なら目を閉じたら二秒で寝られる自信がある
「あれぇ?結羅お姉ちゃん?」
どこかで聞いたことがある声で名前を呼ばれ、霞む目を擦り視界をクリアにして車内を見渡せば頭に触覚が生えた今かりんの中で話題の少年、コナンくんが上目遣いでこちらを見ていた
「あー…コナンくん、久しぶり」
ヨタヨタと彼の元へと近づくと子供が沢山乗っていることに気がついた
隣の女の子と通路を挟んだ向こう側に座ってる子供たちもきっとコナンくんの連れだろう
私のことを興味津々にキラキラと見つめてる
「コナンの知り合いかー?」
「お姉さんだぁれ?」
「私は沢田結羅です、コナンくんのお友達だよ」
よろしくね、と微笑めば子供たちは歩美ちゃん、光彦くん、元太くん、哀ちゃん、そして引率者の阿笠博士だとそれぞれ自己紹介をしてくれた
これからみんなでスキーに行くのに引率の阿笠博士は風邪をひいてしまったらしく自己紹介の途中も何度もくしゃみと咳を繰り返していてすごく辛そう
そう言えばティッシュ持ってたような…書類とゼリーと色変え薬でごった返すカバンを探ればポケットティッシュがいくつか出てきた
「博士大丈夫ですか?私のティッシュもどうぞ」
「おお、すまんのぉー」
「いいえ、風邪は引き始めが肝心っていいますから」
「博士は着いても寝てなきゃダメだよ!」
歩ちゃんに言われて少し残念そうな顔をする博士
どっちが大人かわかんないなと笑ってそろそろ座ろうとしていた時コナンくんがついついと私の服を引っ張った
そろそろ座ってもいいですか。
「結羅お姉ちゃんなにかあったの?
目の下に隈ができてるよ、それになんだか前にあった時より痩せてるし…フラフラしてるよ?」
「たしかに顔色が良くないですね」
コナンくんといかにも賢そうな光彦くん、それから歩ちゃんが気にかけてくれて、元太くんが鰻たべろよ鰻と勧めてくれる
優しさはすごく沁みるんだけど、そろそろ眠気が限界でまた視界が霞んできた
「昨日友達と遊んで徹夜したからすごく眠たくて…
ご飯も、最近はちゃんと…食べてなかったから」
「ちょっとあなた大丈夫?」
「んー…」
「結羅お姉ちゃん座って」
灰原の言葉に生返事を返すかりんを空いている席に誘導して座らせるコナン
彼女の眠気は限界を告げていて座ったその瞬間に意識は暗闇に落ちていった。
そして次に目を開けて真っ先に飛び込んできたのはスキーウェアをきてニット帽にゴーグルまでつけた男。
かりんは寝過ごしてスキー場まで来てしまったのかと外の景色を確認したがそこに雪景色はなく、よく知った道路だったのでホッとしてまた寝ようと目を瞑ろうとしたがそれを目の前の男にそれを阻まれた
「おい、起きろ!携帯をだせ」
「けーたい?」
「結羅、バスジャックデスヨ」
ひそひそ話をするように口元に手を添えてジョディが教えてくれたが、コナンくんと同様、彼女の中で話題のジョディが目の前にいることに驚きバスジャックという単語は聞き逃し彼女のことをじっと見つめる
「あれ?ジョディ…」
「おひさしぶりデス!結羅まだ寝ぼけてマスね?」
ぼんやりと周りを見渡すとジョディの隣に座る男性と視線が交わった
…男の格好をして変装をしてるけど間違いなくベルモットだ
そんな変装してなんでジョディと一緒に?
「携帯出せっつってんだよ!早くしろ」
怒鳴り声に顔を上げればいつまでも携帯を出さない結羅に痺れを切らしたバスジャック犯がこチラに向けて銃を構えていた
それを認めた彼女の脳は一瞬で覚醒し、"結羅"であることを忘れ"マフィア"として鋭い殺気を放ってしまうもスグに"今の自分"を思い出して何事もなかったように怯えたふりをする
「携帯…家に忘れちゃってて、今は…」
ないです…消え入りそうな声で伝えれば男は信じたようでチッと舌打ちをして後ろの乗客の元へ向かったのを見送った
しかしホッとしたのもつかの間、
自分に向けられる鋭い視線を感じとり、視線をすべられて確認すればジョディ、変装してるベルモットにマスクの男性が私を疑うように、観察するように見てる
FBIと組織の2人はともかく、一瞬の殺気に気がつくなんてマスクの男性も何者化まではわからないけれど一般人ではないことは確かだ
何にせよこんなメンバーが乗り合わせたバスをジャックしてる犯人には同情心が湧いてしまう…私もついてないけれど犯人のほうがよっぽどツイてない
少なくともFBIに組織に公安件マフィアって…濃いメンバーだと思う。
でもこれなら解決、とまでは行かなくとも最悪の事態に陥ることはないだろう…それまでもう一度寝ておいてもいいかな…かりんはぼんやりと考えていたが突如聞こえた鋭い銃声で彼女の思考はまた現実に戻されることとなった
どうやら一番後のガムをかんでいた女性が犯人に逆らったらしく身体すれすれに弾が打ち込まれたらしい
震える女性を見て犯人は満足気に笑い運転席近くへと戻ろうと通路を通った時、ジョディが足を組み替えるふりをして犯人の足をひっかけた
それに見事にひっかかり漫画のごとく綺麗に倒れ込む赤帽の犯人
もう1人は水色の帽子で…まるで生まれたての子犬を見分けるための色分け見いだと内心笑うかりんの思考とは反対にバス内にはさっと緊張が走る
「どうした、大丈夫か?」
「あ、あぁこんのー…」
「ジョ、ジョディ…」
「oh......Sorry
oh my god!What have I dine?」
怒りを露わにする赤帽を見て慌てたようにジョディの名を呼ぶ男声にハッとしたジョディは英語で捲し立てながら立ち上がり犯人の手に握られている銃ごとぎゅっと握る
その時にトカレフのセーフティが入ったところをかりんはじっとみつめていた
さすがFBI…それにバスジャック犯が銃に詳しくないのもよかった、セーフティがはいったことに全く気がついてないみたい
「もういい!席に座ってろ!」
英語が聞き取れなかったのか腕を振り払いながらそう言われ大人しく席に座ったジョディが後ろに座るコナンに1言"It’s very,very exciting!"と言い放った
「exciting…ね」
バスもいくらか進んでかりんの脳がとろりと溶け始めてきた頃、犯人の怒鳴り声が聞こえまた寝付くことなく意識が引き戻された。
元々眠りを邪魔されるのが嫌いな上に三徹明けの今日、眠りを妨げるという2度目の行為にかりんの機嫌が急降下しないわけもなく、正常ではない脳で一発眉間にぶち込んでやろうかと考えながら目を開けた。
「えっ」
しかしそのイライラはすぐに吹っ飛ぶことになった
コナンくんが何かを仕出かしたらしく犯人に胸ぐらを掴まれていたのだ
「このガキー!」
やばい、あのまま床に叩きつけるつもりだ
そう理解した瞬間に体を動かそうとするが想像より体が重く素早くは動いてくれない
「っ、」
それでもなんとか身体を動かし地面に叩きつけられる前にキャッチした
セーフ…だけどまずい、本格的に筋力が落ちてることを実感してしまった…
ちゃんとした生活をしないと
「おいガキ、今度変な真似したらただじゃ置かねぇからな!」
「あ、ありがとう結羅お姉ちゃん」
「あんまり無茶なことしちゃダメだよ?
そのうち警察が来て解決してくれるからね」
ね?と言い聞かせるように微笑んで頭をポンポンと撫でる
中身が高校生だって言うのは分かってるんだけど見た目が子供だから子供扱いしてしまうことは許して欲しい
「早く座れ!!」
「はいはい」
彼を抱き上げ席に座らせた時に哀ちゃんが異様に怯えている姿が目にはいった
いや、これが普通の反応なのかな。
車内で銃をぶっぱなされたらこんな反応にもなるか
尋常ではない汗と震えになにか声をかけてあげたいけれど、今は私に銃を向けられている状態だから下手に話しかければ巻き込みかねないと諦めゆっくりと席に戻って大人しく目を瞑る
次に目を開けたら事件が全て解決していることを願って…。