はじまりの予感に騒がしい



昨日の夜に啓悟から「明日休みになったのでデートしません?」と満面の笑みでお誘いを受けた。元々啓悟は今日ホークスとしてプロヒーローのお仕事をせっせとする予定だった。だけど彼の背中を見ればその理由は一目瞭然だった。彼のトレードマークの朱色の剛翼はほとんど残っていなかった。

「名前さんと今日出掛けられてよかった」
「・・・もしかして剛翼使いきったのわざと?」
「そんなことある訳ないじゃないですか」

彼はイタズラをした子供のような顔をしていた。もしかしてわざと使いきった?でもいくら何でも啓悟はそんなことはしないよね。だってニュースになっていた昨日のホークスの活躍は、いつも通りカッコいいなと思った。あんな真剣な目で敵に向かっていく姿にカッコいい以外に感想を持てる自信はない。
そんなことを思いながら私はウィンカーを出して右にハンドルをきった。ラジオから聞こえてくるプロヒーローミルコの活躍に自然と感心してしまう。丁度昨日からミルコが、ホークスの活動地域に来ている。たまたま現れたミルコと連携をしながらホークスは敵を制圧したらしい。ただ厄介な個性の持ち主の敵だったらしくホークスは昨日剛翼を使いきった。それから何だかんだあってミルコがこっちにいるなら今日はホークスはお休みとなった。そして今日は啓悟として私が運転している車に乗っている。


「名前さんが運転出来るとは思いませんでした」
「逆に啓悟が出来ないと思わなかったよ」
「ほら俺飛べるますから免許いらないんです」
「今日は飛べそうもないけどね」
「痛い所突かないでくださいよ」

私はハンドルを握って、進行方向を向いているから彼の表情は横目でしか分からない。ただ声からして楽しそうだ。折角だから今日はちょっとだけ遠出して大型ショッピングモールで買い物をすることになった。海外から輸入しているスーパーで何でも量が多く売られている。私ひとりで運ぶのは難しいし、車で向かってお家に持って帰るのが1番だ。何より今日は啓悟くんという荷物持ちがいる。普段のホークスだと剛翼があり、目立って囲まれる可能性が高く人が多い所には彼となかなか行けない。だから私が行きたいと知っている彼が提案してくれた。

「一応俺の名誉のため言っときます」
「うん?」
「剛翼は使いきったのは本当です」
「ふーん、そうなの?」
「今日働くつもりだったんですが、ミルコが彼女とデートして来いと俺の代わりに働いてくれると言ってくれたので今日休みなんです」

まぁ条件付きですけど、と少し嫌そうな顔をした。プロヒーロー間の約束は怖くて聞くのは辞めとこう。啓悟が全国放送で交際発言したことがあるためミルコにも知っているのかな。だけどミルコに会ったことはないけど、こうやって気を使われるのも少しだけ恥ずかしい。そう思っていればスーパーの駐車場に着いた。ちょうど空いている駐車スペースを見つけて、シフトレバーをパーキングに入れる。切り替えしをしなくても綺麗に駐車スペースに収まった。

「名前さん上手い」
「今日は自分でも上手くいったと思う」
「ベストジーニストより運転上手いですね」
「今度ベストジーニストに運転習おうかな」

記憶の端にあるベストジーニストの運転で啓悟が大変そうにしている姿が思い出す。実際あのドライビングテクニックは神業レベルだと思う。彼の繊細な個性を手足の様に扱えるからこそ出来ると私は信じたい。プロヒーローはやっぱり凄い。
鞄を持ち車から出て鍵をかける。啓悟は何も言わずに私の手を握り歩き出した。私より大きな手で温かい。ヒーロースーツだと手袋をしてて手を繋いでも彼の体温は伝わらない。だからこうやって素肌が触れ合える時が楽しくて仕方ない。

「名前さん嬉しそう」
「そりゃ啓悟と一緒だからね」
「そうやって俺をすぐ照れさせる」
「啓悟は嬉しくないの?」
「名前さんより俺の方が嬉しいです」
「張り合わなくてもいいのに」

普通のスーパーより大きなカートを啓悟は押してくれる。その横に並びながら、何を買うか考えてみる。一応下調べはしたけど実際来たら全てが欲しくなりそうで困る。2人で暮らしているから、食料品を沢山買っても消費出来そうもない。でも病院の同僚と啓悟のサイドキックとかにおすそ分けすればいいかな。
キョロキョロと周りを見ていれば大きな瞳と目が合う。

「名前さん欲しいの?」
「ほ、欲しくない」
「欲しいんですね、クマのぬいぐるみ」
「だってモコモコしてて抱き心地良さそう」

大きな瞳を持ち合わせたクマのぬいぐるみ。触り心地は良好で抱き締めて寝たらぐっすり眠れそうだ。最近啓悟と夜一緒のベットで眠るのが当たり前になっている。だけど啓悟が夜勤の日とか日付を越えて帰ってくる日があるので寂しいときがある。そういう時に一緒に寝てくれる相手が欲しくなってしまう。ついこないだだって啓悟の枕を抱いて寝てしまった。だけどそれを啓悟に言うのは恥ずかしいから言っていない。

「俺がいるからいいじゃないですか」
「そうだけどそうじゃない」
「どういうことですか?」
「何でもないです」
「え、名前さんいじけないで」
「いじけてないよ。あ、パン沢山ある」

クマのぬいぐるみをスルーしてパンコーナーに1人で歩き出した。もちろん啓悟は追いかけてくれる。テレビでよくやっているやつで私も食べたかったパンだ。こんな量どうやって使い切るんだって思うけど食べたい欲が勝ってしまう。そのパンを迷いもなくカートの中に入れてみる。あと何買おうかなと思いつつ、周りを確認していれば啓悟と目が合う。啓悟はさっきの言葉が気になるようで難しい顔をしていた。別に気にしなくていいのに。

「やっぱり名前さんクマ買って帰りましょ」
「いいよ、大きいから邪魔だし」
「男として好きな女がクマとはいえ抱き着かれるのは不服ですが、名前さんが寂しいなら仕方ないです」
「・・・え?」
「この間夜勤中に家に1度帰ったんです。そしてたら名前さん俺の枕に抱きついて寝てたじゃないですか」

あの時は普通に愛らしくて写メ撮ったんですけど、なんて聞こえてきて咄嗟に恥ずかしくて手で顔を隠す。え、普通に見られていたの?どういうこと?確か数日前ヒーロースーツの啓悟に頭を撫でられキスされた夢を見たと思ったけどあれは本物だったの?うわぁ夢まで啓悟のこと考えて、どんだけ私啓悟のこと好きなんだってニヤニヤしたのに。

「色々突っ込みたいけど」
「俺もおらん日があるんで寂しか思いさせていると自覚はしてます」
「うん、でも大丈夫だよ」
「俺が嫌だ。だからお前に名前さんを任せます」

啓悟はクマのぬいぐるみを軽々しく持ち上げカートに入れた。いくらカートが大きいとはいえクマのぬいぐるみもなかなかの大きさだ。半分以上埋まって可愛い。そのままクマのぬいぐるみと啓悟と私で商品を選んでいくことになった。

結局啓悟がホークスとはバレなかった。だけどクマのぬいぐるみを買った人として私たち2人で目立ってしまった。ただ帰りの車の中で後部座席にはクマのぬいぐるみいてバックミラー越しに目が合う。新しい家族が増えてちょっとだけ嬉しくなってしまっている自分がいた。


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