泣きそうな笑顔に、
朝のミーティングからMs.谷川の姿が見えない。自分の仕事が一段落したところ、甘ったるい匂いを放つココアらしき液体を持ったルーピンに尋ねると「あぁ、菜緒ちゃん?さっき、今日有給取ってるハリーの代わりに発注ミスを謝りにいってるよ。僕の仕事がこんなになければ代わりに行くんだったんだけどね。まぁ、これも社会勉強さ。」と、言いながらココアらしきものに角砂糖3つとミルクチョコの欠片を戸惑うことなく投入していった。将来、糖尿病になるだろうな。否、既に糖尿病だろうな。
「して、Ms.谷川はどこに?」
「うちのお得意様さ。」
「もしかして、ルシウスのところではないだろうな?」
「そのもしかだよ。」
そう言うと、デスクに向かいチョコレートを食べ始めた。
あぁ、なんという悲劇。ルシウスは学生時代の先輩で、あの頃から女癖が悪かった。気に入った女性と見ると、百発百中でベッドまで連れ込む。失敗したことはこの歳になっても未だにない。
Ms.谷川がルシウスに気に入られなければ良いのだが、愛らしい容姿をしている。恐らくルシウスに気に入られているのだろう。
とりあえず、自分のデスクにたまっていた仕事を出来る限り早く処理する。
頑張っても終わったのは夕方だった。
急いでタクシーに乗り、ルシウスの会社に行く。
間に合えば良いのだが、恐らく無理だろう。否、間に合ってくれ。
「釣りは入らん。」
急いでフロントにてルシウスの居場所を尋ねるとまだ会社にいるとのことだ。
気持ちが急くと歩みも自然と早くなる。
応接室から、ルシウスとMs.谷川の声が聞こえてきた。
「菜緒、私の秘書をしないかね?」
「結構です」
「近くにいれば、いつでも可愛がってやるぞ。」
「結構です」
「菜緒は何が不満なのかな?
あぁ、給料だね!心配するな、今の会社の少なくとも1.5倍は出そう。君の働きによれば2倍以上だよ。」
彼女はなんと答えるのだろうか。至極気になる。
「それでも、私は今の会社が良いんです、Mr.マルフォイ。」
「菜緒、私のことはルシウスと。肌を重ね合わせた仲じゃないか。ね?」
「ルシウス、失礼するぞ。」
気づけば、ノックもせずに勢いよく扉を開けていた。
「スネイプ先輩!」
「なんだ、セブルスか。君の部下の責任は彼女が誠心誠意をもって、片付けてくれたぞ。」
「ならば、用はないな。帰るぞ、谷川。」
「セブルス、今度から取引の時は彼女を指名するよ。」
「断る。」
彼女は丁寧にお辞儀をすると、泣きそうな笑顔のまま私の隣を歩きだした。
会社を出て、人気のない路に彼女を引っ張り込む。
ヒッと短い悲鳴が聞こえたが、それよりも彼女の身が…
「ちょっと良いか?」
コクンと頷いたのを確認し、意を決して口を開く。
「もしかして、ルシウスと関係を結んだのでは?」
彼女は答えない。
「沈黙は肯定にとるぞ。」
やはり、か。
「どうして、」
頭の中の疑問が口を接いで出た。
「だって、関係を結ばなければ、今すぐにうちとの契約を破棄するとおっしゃられたので、私は」
「すまなかった、
ポッターも悪いが、もとを問えば私の責任だ、」
「先輩、ご自身を責めないでください。
私が受け入れなければ、しょうがなかったですし、」
ね?、と小首を傾げる彼女は泣きそうな笑顔を私に向けてきた。
そっと、脆く壊れそうな彼女を腕のなかに閉じ込めた。私が彼女の思い出を取り去ることは出来ないだろうか。
泣きそうな笑顔に、恋をした
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