★ムーン・プリズムパワー・メイク・アップ★

兵学校の定例行事に剣の舞がある。
剣を使用した舞い。
剣術で好成績を修めた二人が舞いを踊り、観客を楽しませる。
バロンには、貴族社会の風習が根強くあり、政治にも典雅な行事が組み込まれている。
兵学校でも、剣術や航空術など武骨な科目ばかりを普段習得させられるが、貴族の家系に属する者は楽器や舞踊などを家の掟で習わされるのが普通だった。

今回の剣の舞は、カインとセシルが務めることとなった。
カインは幼少のころから舞いに親しんでいたため、簡単にこなすことができたが、セシルは初めての試みだったので、基礎からはじめることとなった。
授業が終わった後、ハイウィンド邸の広間で、舞いの練習をする。
立ち振る舞いの仕方をカインが丁寧に教える。
立っている時の目線、移動するときの脚の運び方。
セシルはすぐに覚えて行った。
カインは教えたことを一人で一通りやってみろ、とセシルに言い、少し離れたところから出来を確認した。
舞い始めるセシル。

線が細く、体の柔らかいセシルがその舞いを演じると、まるで女形のように見える。
手繰られる剣が優美な線を描く。
セシルの癖である、首をかしげるような仕草で、カインを見やり、自分の舞いが正しいか視線で問う。
それが媚びているように見えて、カインは目を奪われる。

「・・・どうだった・・?」
舞い終えたセシルは少し恥ずかしそうにカインに言った。
「悪くないな。これなら大勢の前に出ても見られる演技ができるだろう」
そう言われてセシルは照れながら笑った。
「セシル、舞いを演じる時や戦に出る時、上級兵は戦化粧をするんだ」
「戦化粧・・・?聞いたことはあるよ」
カインは立ち上がり、化粧道具を持ってくる。
「まだしたことがないだろう?慣れておいた方がいい」
そう言って、化粧品の蓋を開ける。
興味津津のセシル。
カインはセシルの髪を耳にかけ、頬を一撫ですると、白粉をはたいた。
薄く粉が頬にかかる。
色白のセシルに、お粉は必要なかったか、とカインは思った。
くすぐったそうに微笑むセシル。
「目を閉じろ」
筆を持ったカインに言われ、セシルは従順に瞳を伏せる。
目尻に青い線を引く。
線を引き終わると、セシルが瞳を開けた。
青に縁取られた瞳。銀色の睫毛と青のコントラスト。
真剣なカインの視線に恥ずかしくなったのか、セシルが少し瞳を下に向ける。
睫毛が影を落とすその瞳はあまりにも扇情的だった。
最後に、カインは紫色のルージュを手に取った。
バロン兵は青や紫、黒を唇に乗せる。
女性が好んで付ける赤や桃色の口紅とは違い、寒色のくっきりとした色合いは視線を引いた。
似合わない者がすると、正直ギョッとする色だ。

筆先にルージュを乗せ、セシルの唇に塗って行く。
顎をカインに捕えられ、顔を間近に寄せられると、セシルは再び視線を落とした。
丁寧に筆を走らせる。
カインの手元を見つめているセシルは時より、視線をカインの顔へ向けた。
「・・・よし。鏡を見てみろ」
ルージュの蓋を締めながら、カインが言った。
セシルは鏡を覗きこむ。
普段とは見慣れない自分の姿。
なぜ、戦をするのに化粧が必要で、しかも唇と紫にするのだろうとセシルは思う。
「なんだか、僕、変じゃないかな・・・?」
鏡越しに心配そうな顔をして、カインに尋ねる。
しかし、カインはセシルの顔に見とれていた。
他の者が戦化粧をすると、一見おぞましさを感じることがあるが、セシルのそれは妖艶だった。
少年の時より痩せて、肉が削げ落ちたセシルの顔に青を塗ることで、何か病的とも言える色香が匂い立つ。
カインに見つめられ、セシルは気恥ずかしさに黙り込んだ。
「・・・ねぇ、カインはどういう風に化粧をするの?」
自分ばっかり顔に何かを塗っているのが恥ずかしいので、セシルはカインにも化粧をするように頼んだ。
カインはそれに応じて簡単に顔を作る。
幼年期より、戦に出る父親の化粧を見ていたカインにとって、青の装飾は日常的なものだった。
手早く口紅を引いて行く。
「・・・ほら、こんなものだ」
少々乱暴とも言える手付きだったが、出来上がりは美しかった。
カインの怜悧な瞳が青に惹きたてられる。セシルとは異なり、濃い青を唇に乗せたカイン。
カインの美しい唇の形が強調されている。
寒色の口紅をおかしいと思っていたセシルだったが、カインの戦化粧があまりにも綺麗だったため、言葉を失ってしまった。
ほとんど無意識のうちに、カインの青い唇に触れる。
セシルの指に青が移る。
「・・・あ・・・」
ごめん、と謝ろうとしたとき、カインの唇が自分の唇に触れるのを感じた。
目の前にはカインの顔。青い唇に自分がしている紫が少し付いている。
幼年期の野原での思い出がフラッシュバックする。
セシルは顔を赤くして黙り込んだ。

カインは何も言わずにタオルでセシルの顔を拭き、化粧を落として行く。
カインも自分の化粧を落としてしまう。
戦化粧を洗い流してしまうと、自然と普段の二人に戻っていた。
「舞は、ここまでだ。久しぶりに剣を交えよう」
カインは装飾剣を鞘におさめ、フェンシング用の剣をセシルに投げて寄こした。
「あぁ、カイン。勝負だ」
剣を受け取ると、勝気な笑顔を作り、セシルはカインと向かい合った。


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