★未来★

「カインは僕をヴァンパイアにしたことを悔やんでいるの?」
あの日から極端に口数の少なくなってしまったカインにセシルは言った。
恨みがましさや怒りというものを全く感じさせない無垢な瞳で、カインは見つめられている。
特別な感情の含まれていない瞳。ただ頭に浮かんだ疑問の答えを、純粋にきいてみたいがために口に出されただけだ。
カインはそんなセシルの表情に少し拍子抜けしたが、それがカインを取り巻いている倦怠を晴らすことはできなかった。
「・・・あぁ」
少しの間の後、カインは正直に頷いた。
決まり悪そうに伏せられる瞳。
それを見たセシルは、少し小首をかしげながら微笑んだ。
「僕はうれしかったけどな」
ふふっとセシルの笑う吐息が聞こえる。
能天気に笑っているセシルを、カインは少し鋭い瞳で見つめ返した。
「なぜ、そんな風に笑うことができるんだ」
「だって」
ふてくされたようにムキになっているカインを、さぞおかしそうに見つめるセシル。
「だって、カインのあんな姿が見られたんだもの」
そう言われて、カインは顔を真っ赤に染めた。
あの夜、カインはセオドールに貫かれて涙を流しながら乱れ、気絶するように眠りに落ちた。
「何言って・・・」
不機嫌な表情を一瞬にして崩されてしまい、カインは俯いて唇を噛む。
「冗談だよ、カイン」
セシルがカインの肩に凭れかかる。
「少し前まで、僕はずっと寂しかったんだ」
遠い目をしながら、セシルは話始めた。
「もうすぐ、僕が成人したら、家を継ぐ兄さんとは離ればなれになってしまうだろうし。君は僕の手の届かない高みへ、一人で行こうとしていたじゃないか」
無表情のセシル。作り物めいた美しさは、冷たい石膏像を思わせた。
「僕は一人ぼっちで生きていかなければならないんだと、ずっと思ってた」
再び浮かべた笑みが、あまりにも寂しそうで、カインは咄嗟にセシルの肩を抱いた。
「でも、カインのおかげで、兄さんとも、カインとも深く繋がることができたよ」
セシルはカインを見つめた。
カインもセシルを見つめ返す。
―深く繋がるか・・・―
カインは思った。
人間ではなくなってしまった自分たち3人は、他言無用な秘密を分かち合い、心も体も文字通り繋がり合った。
孤独は埋められたかもしれない。
しかしそれが何になろう。
全ての物事が始まりから終わりへ移り変わっていく世の中において、自分たち三人は空中に浮かんで静止している。
自分たちの終着点は一体どこなのだろうか。
この自堕落な生活は一体、いつまで続くのだろうか。
黙り込んでしまったカインを、セシルは不思議そうに眺めると、悪戯半分で、カインの首筋に唇を落とした。
「何を恐れているの?・・・カイン」
セシルの唇が肌を滑る。
カインは目を閉じた。
カインが身を委ねて来たことを悟り、セシルはカインの肌を舐め上げると、そこへ牙を突き立てた。
「あっ・・・くっ・・・」
肌に牙を埋められ、一瞬の痛みにカインが呻く。
「はぁ・・・あぁ・・・」
血を吸い上げられる。甘ったるく濃厚な快楽が体を包む。
牙を引き抜いたセシルは唇をこれ見よがしに舐める。
「おいし・・・」
恍惚とした顔。
セシルの赤く色づいた唇がカインに近づく。
カインはセシルを抱きとめ、その唇に口づけた。
セシルがカインをベッドに押し倒す格好になる。
二人はそのまま舌を絡ませ合った。セシルはカインの咥内に舌を差し込み、絡め取ると、カインの精気を吸い上げた。
「ふっ・・・ん・・・」
カインはドレインをかけられたように体力を奪われる。
少し青い顔をして、ベッドに沈みこんだ。
動けないカインにのしかかるように、セシルが口づける。
セシルの唇はカインの首筋を辿り、鎖骨を滑って行く。セシルのふわふわした髪が肌に触れる。
そのくすぐったいような感覚にカインが耐えていると、セシルの唇はカインの胸の飾りに辿り着いた。
濃厚な快楽がカインを包む。
「・・・はぁ・・・あぁ・・・」
突起に舌を絡められると、カインが声を上げる。
いつも涼しい顔をしているカインが眉を寄せて感じ入っている。
低い喘ぎ声がセシルの情欲を煽った。
セシルは更に下の方へ移動していった。
カインの下肢に辿り着く。それに手をかけ、梳き上げると、ぱくんと口の中に咥えこんだ。
「はぁ・・・セシル・・・」
一生懸命それを舐める。
慣れないその奉仕は少々稚拙だが、カインはセシルが自分のものを咥えている光景に煽られていた。
セシルはカインのものを育てながら、自分の後孔に指を持って行った。
カインへの愛撫をしているだけで感じてしまったセシルのものは既に立ち上がり、濡れていた。
それは後孔にまで溢れていた。
指を埋め込んで行く。
腰をくねらせながら、セシルがカインを咥える。
「んぅ・・・んふ・・・はぁ・・・」
快楽に濡れた目でカインを見やる。カインの目尻を赤く染め、セシルを見ていた。
セシルはカインのものから口を離すと、挑発するような目でカインを見ると、大胆にカインに跨った。
後孔を二本の指で広げながら、腰を落として行く。
「・・・あ・・・あん・・・んぅ」
苦しそうな表情をしながら、カインを飲みこむ。
徐々にセシルの蕾は開き、カインを受け入れて行く。ひくつくそこが口を大きく開いて行く様子にカインは見とれていた。
全てを埋めると、セシルはカインの腹筋に手を付いて律動を始める。
「・・・ッ、ん・・・あ・・・」
始めのうちはゆっくり、恐る恐る。
快楽に馴染んでくると、ペースを上げていく。
「はぁ・・・あ・・あん・・」
カインの手がセシルの腰を支える。
「・・あぁ、あ・・ふっ・・・」
最も感じる所を強く擦りあげてしまい、セシルがひと際高い声を上げる。
セシルの手が震える。
「あ・・・カイ、ン・・・」
潤んだ瞳でカインに助けを求める。後少しのところでイケない。
先程の挑発が嘘のように腰の上で震えるセシルを見たカインは、セシルをベッドに引き倒し、今度は自分が上になった。
「うあ・・あぁ・・・」
押し倒された拍子にナカを擦られ、セシルが余裕のない声を上げる。
「仕方のない奴だな」
カインはセシルの額に口づけ、セシルの髪を梳くと、露わになった首筋に噛みついた。
「あん、カインッ・・あはぁ・・・」
カインに串刺しにされながら、血を啜られる快楽に、耐えきれずセシルが悲鳴のような喘ぎを上げる。
血を取り戻したカインは、腰を使い始めた。
「ふぅ・・・はぁ・・・あぁ・・・」
与えられる快楽にセシルは悶える。
「セシル・・・ここ、だろ・・・?」
カインはセシルの膝裏に手を差し込み、先程セシルが悶えた個所を強く抉った。
「あ、ああぁ」
セシルの体が大きく跳ねた。
セシルをベッドに縫い付けてしまうかのような激しさで、カインは腰を振るう。
「あ、カインッ、はああ、あ、そこ、ばっかりッ」
髪を振り乱しながらセシルが叫ぶ。
カインも余裕のない表情をして、セシルを追い詰めていく。
「ん、あ、あぁ、や、もう、イ、クぅ・・・ッ・・・」
セシルが爪先を丸め、カインにしがみつきながら白濁を放った。
ナカが激しく痙攣する。
カインのセシルの最奥に欲望を放った。
熱い奔流を感じ、セシルの体が震える。
涙をこぼしながら息を吐くセシルの髪をカインが撫でる。
「大丈夫か・・・?」
面と向かって聞かれる羞恥に頬を赤らめながら、セシルが頷く。

二人はしばらくそのままベッドに横になっていた。
心地良い眠気が二人を包んでいる。
その静寂の中、ぽつりとセシルが呟いた。
「カイン、僕、また兵学校に行くよ・・・」
カインは瞼を持ち上げると、そうか、と応じた。
「ずっと欠席だったけど、やっぱり行かないと」
カインは未来のことを思い描いた。兵学校に行くのはいい、だが、卒業した後はどうしようか。
カインの考えをセシルは先読みしたかのように付けくわえた。
「僕、暗黒騎士になろうかと思う」
思いがけない言葉に、カインは驚いた。
「なぜだ。兵学校なんかやめて、セオドールと領地を収めればいい」
セシルは静かに首を横に振った。
「それは兄さんの仕事だ。それに、今の僕だったら痛みや苦痛にも耐えられる。人を殺めて生きているんだもの。少しは人の役にも立たないとね」
常人に耐えられない暗黒騎士の試験を、ヴァンパイアのセシルが堪え切れるのは当然だろう。
だが、何のために?
「セシル、考え直せ。俺たちは人間と一緒にいるわけにはいかないんだ。戦争の駒になってどうなると言うんだ」
「カインだって、竜騎士になるために、兵学校にいたんだろう?人間の時の目標を、今の僕たちが再び追うことが、そんなにおかしいかな」
柔らかな笑みを浮かべてカインを説得にかかる。
竜騎士を目指すこと、なぜ、それを今まで忘れていたのだろう。カインはそんなことを思った。それこそ自分の目標だった。
これから続いていく永遠を無為に過ごすよりは・・・
カインは逡巡した。
「兵学校に戻ることには賛成だ。しかし暗黒騎士には賛成できない。セオドールともよく話し合え」
「わかったよ、カイン」
セシルはカインの胸に顔を埋めて、むにゃむにゃ言うと眠りに落ちてしまった。
カインは安らかな寝息を立てるセシルの髪を撫でながら、いつまでも眠れないでいた。

★☆★☆
これより先は下り坂です。

[ 57/148 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -