★少女の夢(上)★

その令嬢はバラ園を訪れていた。広大な敷地の中に作られたバラの楽園。古代王朝の庭園を再現した立派な作りをしている。
そこで令嬢は、今まで見たことも無いような美しい人と出会った。
銀色のカールのかかった髪を揺らしながらバラを見つめる青年。セシルだ。
令嬢から見たセシルは、まるでおとぎ話に出てくる王子様のような麗しい姿をしており、優しい表情でバラを眺めていた。
その姿に見とれ、無意識のうちに、セシルの後を付けてしまった。

セシルの方では退屈な心を持て余しながら、なおざりにバラを見つめていた。
ヴァンパイアとなる前、バラは、美しく高貴な花だった。しかし、ヴァンパイアとなってからは、バラは精気の芳醇な非常食に過ぎなくなってしまった。
今のセシルの目にも、バラはまだ美しく映ってはいたが、その華美すぎる形、均整のとれすぎた形が、作り物のように見えてならなかった。
このバラは自然界の産物ではなく、もしかしたらゼムスのような悪の化身が、暇を持て余すあまり作り出した紛い物なのかもしれない。
そう思うと、その姿を誇示するがごとく咲き誇っているバラたちに、何か薄ら寒いものを感じた。
しかし、それらは貴重な栄養源だ。
殺さなくても手に入る精気というのは貴重だった。
セシルはバラを枯らさないように注意しながら、少量の精気を沢山のバラから集めて歩いていた。
セシルはバラ園の中でも一番豪勢な形をしたバラの前で立ち止まった。
幾重にも重なる花弁。
どれほどの時間と手間をかけたら、このような形に仕上がるのだろう。
人の目を楽しませるためだけに、過剰に盛りたてられたその容姿は、セシルにとって醜悪以外の何ものでもなかった。
セシルは素早く目を走らせ、周りに人がいないかどうか、確認をする。
―このバラを一本枯らしてしまおう―
セシルは口元に、この園で一番美しいバラさえ恥じらうような可憐な笑みを浮かべた。
一番豪華な花弁を持つバラの上に屈みこみ、唇を充てる。
バラはみるみるうちに茶色に変色し、黒い消し炭のようになってしまった。
セシルの中に精気が入り込む。バラの芳醇な香り。
バラは食用になった時が一番有用で、一番美しい。セシルは思った。

令嬢はセシルが長い間、一つのバラのところから動かないのを後ろから見ていた。
―あの方は、あのバラの品種が一等好きなんだわ―
そんなことを考えていた。
セシルが立ち去って行く。どのバラがお気に召したのか、令嬢は気になり、そこへ近づいていく。
すると、豪勢なバラが咲き誇っている中で、一本だけ枯れてしまっているバラを見つけた。
―もしかしたら、あの方は、一本だけ枯れてしまったこの花を弔っていたのかしら。なんてお優しい方!―
令嬢はセシルが歩き去っていく様子をうっとりと見つめていた。
上機嫌で邸へ帰った令嬢は、セシルこそ、自分と恋をするのにふさわしい相手なのだと思っていた。
バラの咲き誇る庭でセシルと偶然出会う、会話を交わす内にセシルは自分を好きになる。
そしてダンスパーティの時に素敵なワルツを踊ったところで求婚される。
令嬢はセシルとの結婚生活を夢想していた。

幾日か経ち、再びバラ園を訪れた令嬢は、またセシルの姿を見た。
ここで出会うとは、やはり自分たちは恋に落ちる運命なのだろう、令嬢の夢想は終わりが無かった。
静かにセシルの後を付けて行く。
セシルは一人でゆっくりと歩いていた。
バラのアーチの陰から、セシルを盗み見る。
今日こそ声をかける、令嬢は意気込んでいた。
「兄さん」
すると、セシルが声を発した。
どうやら今日はご兄弟と一緒のようだ。
何かを会話を交わす声が聞こえてくる。令嬢は身を乗り出した。
セシルと同じく銀色の長い髪をベルベットリボンで一まとめにした長身の男性を見とめた。
あの方は、セオドール様。
この地方で有名な領主であるセオドールの容貌を、令嬢は知っていた。
では、あの方は弟君のセシル様。

二人の会話は止んだようだ。目を凝らして見ると、セシルとセオドールは口付けを交わしている。
親愛を表す頬へのキスではなく、恋人同士がするような濃厚で甘い口付け。
模範的な紳士として名の通っているセオドールがセシルの白い首と、細い腰に手を充て、セシルに覆いかぶさる様な激しさで舌を差し込んでいる。
―何をなさっているの?―
令嬢の脚は震えた。
「あ、兄さん、こんなところで」
「誰も見ていないさ」
二人の行為はどんどん大胆になっていく。
セオドールの手がセシルのズボンの中に入り込み、何か小刻みに動いている。
「あ、あぁ、兄さん」
セシルが甘い声を上げている。
これ以上見てはいけない。
令嬢は自分をたしなめたが、セシルの甘えた声があまりにも官能的で、ことがどのように終わるのか、最後まで見てしまいたい欲にかられた。
二人は衣服をくつろげている。
セシルが脚を上げ、セオドールを待ち構えている。
セオドールはセシルを抱きかかえるようにして、覆いかぶさった。
セシルの中に、セオドールは・・・令嬢は顔を赤らめた。
「はぁ・・・兄さん・・・あぁ・・・」
背を反らせ、セシルがため息にも似た感嘆を上げる。
白い喉元がセオドールを誘っているようだ。
「あっ、に、いさん、あん、んっ、あ、はぁん」
二人の動きはどんどん激しくなっていく。
セシルの腰がびくびくと跳ね、快楽に秀麗な眉が寄せられる。
苦しそうなその表情はあまりにも美しかった。
セオドールがセシルから離れると、セシルの腿には白い液体が垂れる。
セシルはその液を指ですくい上げると、舐めとった。舌を出して指に絡める。
「兄さんのが一番おいしい」
上気した顔で微笑む。
セシルのその様子を見たセオドールは、抑えが利かなくなったのか、セシルを抱え上げるとベンチに降ろし、再びセシルに突き入った。
先程の控えめな行為とは打って変わって、まるで獣の戯れのように、二人は交わった。
セオドールが引きぬけてしまうギリギリまで腰を引き、再び突き入れる。
腰を思い切りセシルにぶつけると、セシルは悲鳴のような喘ぎを上げた。
ぐちゅぐちゅという、あからさまな音が響き渡り、セシルの内部が激しく掻き回されていることが知らされた。
「あぁ、兄さん、すごい、はっ、あん、ぼくっ、もう、あぁ、兄さん」
狂ったようにセシルが喘ぎ、髪振り乱す。
乱れた銀糸が汗ばむ肌に張り付く様子に、令嬢は見とれていた。

令嬢は重い足取りでバラ園の出口へと歩いて行った。
セオドール様とセシル様はあのような関係だった。
兄弟同士で交わるだなんて、なんて汚らわしい。
神様は二人をお許しになるのかしら。いいえ、そんなことは決して!
邸に着いても、令嬢の心はセオドールとセシルのことで埋め尽くされていた。
身悶えるセシルの姿が焼き付いて離れない。
―神がセシルを咎めないのなら―
令嬢は熱く火照ってしまった体をくねらせ、ドレスの裾に手を差し入れると、まだ男性を知らないそこへ、指を差し込んだ。

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