★ヴァンパイアの牙★

セオドールとセシルの評判は上々だった。
始めのうちは誰にも本心を見せず、気丈に振る舞う二人の兄弟を可愛くないと陰口をたたく者も現れたが、礼儀正しい紳士として成長を遂げた二人を、世間は認めて行った。
貴婦人の開くサロンでは、成年したセオドールが誰と結婚するのか、少々下世話な噂で持ちきりだった。
自分の娘と結婚させたがる貴婦人が画策を張り巡らせている。
先に開かれたダンスパーティで、セオドールは女性に恭しく挨拶をするだけで、誰にもダンスの相手を申し込まなかった。
意中の女性はいないのだろうか、それとも心に決めた相手が既にいるのだろうか。
貴婦人たちは口々に噂している。
その様子を興味深げに眺めていたのがゼムスだった。
この界隈でもっとも権力を持っているゼムスが、口元に笑みを湛えて、ここはひとつ私がセオドールに聞いてみようじゃないか、支配者らしい尊大さを持って言った。
貴婦人たちはざわめき、是非そうしてほしい、ということを言った。

ゼムスは早速、馬車をセオドールの館の近くに止めて、様子をうかがった。
セオドールとセシルが仲睦まじく並んで歩いている。
二人は笑顔を向け、何か話しながら館の中に入って行った。
ゼムスは持ち前の千里眼で、館の中を伺う。
談笑を重ねる二人、しばらく様子を眺めていると、午後の木漏れ日の中、セシルはうとうとし始め、セオドールのソファの中でうたた寝を始めたようだった。
その様子を見つめるセオドール。
おもむろに立ち上がると、セシルに近づき、その前にしゃがみこんだ。
セシルの白い手を取ると、甲に口づける。
そして、セシルの頬にかかる銀髪を掻き上げ、そっと頬を撫でると、口付けを落とした。
兄弟同士の挨拶ではなく、恋人にするかのようなキス。
セシルの唇をふさぎ、吸い上げる。
セシルが少し身じろぎをする。
セオドールは気付かれないよう、静かに立ち上がり、その場を離れた。
ゼムスは確信した。セオドールがどの女性にも興味を持たない理由。
それは弟を誰よりも深く、愛しているからだった。
ゼムスは満足すると、馬車を自邸へと引き返させた。

ゼムスはセオドールが一人で眠りに就く夜を見計らった。
セオドールが勉学を終えてランプの明かりを吹き消した時、ゼムスはセオドールの前に姿を現した。
暗闇の中、突然、自分のでもセシルのでもない、足音が響いた。
暗がりに何かの気配を感じ、セオドールは「何者だ」と警戒し、体をこわばらせた。
ゼムスは素早く、セオドールの背後に回り、声をかけた。
「そんなに怖い顔をしないで頂きたい」
セオドールは勢いよく振り返る。
ゼムスはさっと姿を消した。
「わが名はゼムス」
セオドールの前にその大きな姿を見せ付ける。
驚きのあまり声も出なかった。
ゼムス・・・公爵の名か、しかしなぜここに・・・?
あまりの出来事にセオドールの頭は混乱していた。
「不躾な訪問をお許し願いたい。ここのところ、目覚ましい働きを見せている貴殿に一目お会いしたいと思いましてな」
クククと喉の奥から絞り出すような笑い声を上げて、ゼムスが口上を述べる。
「サロンでも貴殿の噂で持ち切りになっているのです」
ゼムスの気配が自分を取り巻くように動き、四方八方から語りかけてくる。
そのめまぐるしい気配の動きにセオドールは動揺していた。
「成年を迎えたのに、どのご婦人にも好意を示さない貴殿が何をお考えであるか、淑女方々は口ぐちに噂しておられる」
ゼムスの実態がつかめない。セオドールは後ずさりをし、自室のドアへ近づこうとした。
「・・・ッ!」
セオドールがこの部屋から逃れようとしていることに気づき、ゼムスがまた背後に回ると、セオドールは背中がゼムスの体とぶつかるのを感じた。
「私にはわかっているのですよ、セオドール。貴殿の考えが」
凍えるように冷たい手に肩を掴まれる。
「貴殿が最も愛している者が誰なのか」
セオドールの額に冷たい汗が伝わった。
耳元でゾッとするような声に囁かれる。
「恐れ多くも、同性の、そして最も血の近い親族・・・セシルということを」
セオドールの耳に、ゼムスの舌が入り込む。
冷たい軟体動物のように器用に這いまわるその舌に浸食され、セオドールは震える手でそれを振り払おうともがいた。
腕を振り回したが、それがゼムスに当たることはなかった。

「貴殿が最も欲しがっているのはセシルだ」
ゼムスの手がセオドールの夜着の中を這いまわる。
「セシルに欲望を感じているのだろう・・・?」
その手に乳首を撫でられると、セオドールの肩は震えた。
「しかし、それは許されないことだ、世間が、教会が、貴殿を迫害するだろう」
「・・・ぅ・・くっ・・・」
背後から首筋を舐め上げられる。
「しかし、そんなくだらぬ慣習に囚われる貴殿か?それともセシルを汚すことが恐ろしいのか?」
撫で転がされる乳首が固く尖り始める。
「・・・ぁ、・・はっ・・・」
「両親を失ったあの日から、貴殿は既にこの世界など、どうでもよくなっているのだろう。
貴殿にとって世界とは、貴殿とセシルが生きる場所のこと」
「・・う、あぁ・・」
そこを摘み上げられた時、セオドールは遂に甘い声を上げた。
「想いを解き放って何が悪い。昨夜だって、セシルを貫く甘美な夢を、見ていたではないか」

ゼムスの手がとうとうセオドールの下肢に伸びる。
「・・・よせッ・・・」
セオドールが最後の抵抗を試みるが、ゼムスはびくともしない。
「うあ・・・くぅ・・・」
無情な程の手さばきで、そこを梳き上げられる。
「仲間になれ、闇夜は貴殿の欲望を歓迎するだろう・・・」
ゴルベーザの首筋を一舐めすると、ゼムスは牙を押し当てる。
「・・何を・・・、あ、ああぁ・・・」
ぶつり、という音が立つと、牙がめり込んでくる。
血を啜られるおぞましい音が響く。
しかし、その行為にはあからさまな快感が漂っていた。
自分の精気を吸われるとともに、ゼムスの暗黒の力が体を満たすのを感じた。
自分の想い、セシルへの想いを抑制し、自分を律するため排除していた欲望が、解き放たれるのを感じた。
体を埋め尽くす自由の息吹。
「あ・・・・はぁ・・・・」
牙から送られてくる精気に身を震わせるセオドールの下肢を追い詰めるように梳き上げる。
「・・くぅ・・あぁ・・・ああ」
床にパタパタという、液が垂れる音が響く。
ゼムスが牙を引き抜くと、セオドールは気絶した。

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