★はじめてのさつじん★

あれから、僕とカインはなんだかんだで仲良くやっていた。
ガキ大将のカインと、おとこおんなの僕。あんまりにもちぐはぐした組み合わせに、孤児院の子供たちもどうやって接していいのかわからないような表情をしていた。
僕を小突きまわそうにも、カインに逆らったらこわいし。

一人では適わないと思ったらしいいじめっこは、束になってかかってきた。
木製バットを振り回しながらカインに向かっていく。
カインは器用にバットを交わしながら反撃する。
それを僕は一歩離れたところで見ていた。
でも、四方八方から攻撃されて、カインはとうとうバランスを崩した。
頭を殴られたのか、カインの額からは血が出ている。
僕は目をつむった。

「ぐぅっ・・・」
カインの辛そうな声が響く。
目を空けてみると、一人がカインの首を絞めていた。
カインは僕のせいで首を絞められている。
カインの苦しそうな顔を見た瞬間、僕の中で何かが弾けた。
僕はいじめっこの横っ面を殴ってやった。
渾身の力を込めてぶんなぐってやったら、こともあろうか、いじめっこの頭はまるでお豆腐が崩れるように、粉々になって地面に落っこちた。
カインが絶句している。
頭蓋骨が飛び出して、脳が飛び散っている。
僕は過去のニュース映像で見た、母の最期を思い出した。
僕の手は真っ赤になっている。父と同じ形の手。やっぱり、僕は父の血を引いている。

庭で、子供たちはパニック状態になった。
突然目の前に血まみれの死体が現れたからだ。
教諭たちが外に飛び出す。
いつもなおざりな優しさで迎え入れてくれる教諭たちは真っ青な顔をして、僕を見つめていた。

その日から、僕は違う施設に移されることになった。
カインとはお別れ。
僕が殺した子供は、木登り中の不幸な事故、として扱われた。
子供が子供を殺すなんていうスキャンダラスなニュースを、孤児院としても表ざたにしたくなかったからだ。
事実は何のためらいもなく隠蔽される。

精神科のカウンセラーは、僕が小さい頃から父親に虐待されていた心的外傷が暴力の姿を取ったと診断した。
後になって、僕はその診断が間違っていたことに気付いた。
僕の遺伝子。母の遺伝子は生きることを望まなかった。それで母のクローンは皆死んでしまった。
でも、僕の細胞は生きることを望んで、増殖して、僕をこの大地に立ちあがらせた。
父から受け継いだ、おぞましい程の生命力。有り余るその力が、僕の体の底から湧きあがってくる。その力の本流は、僕自身でも制御できない。

小児科医たちは連日、会議をして、僕の処置をどうするか決めていた。
そして、下された診断では、僕には安らぎが足りない、ということだった。
母の胎内にいた時間が他の子供よりも短かったから(本当は1秒たりともそんな時間を過ごしたことはなかったけれど)、他の子供より、精神的に不安定になっている。
母親の胎内、羊水に包まれて、ゆらゆらと揺れている時間、そういうものを与えてみたら、安定するのではないか。
僕はヘルメットみたいな電子音装置を頭にくっつけられ、人工的に作られた母親の胎内の音、心臓の音を聞かされた。
そして、ぷるぷるした素材のウォーターベッドに寝かされ、ふわふわと不思議な世界を流れていた。
脳に直接流れてくるように聞こえてくる、脈動。
それは心地良いものだった。
僕はその日から、1年の間、心臓の音を聞かされ続けた。
小児科医たちは、僕の脳波を測定して、満足げに笑った。
「十分に効果は表れた」
これで、僕は「ちゃんとした」子供として、人間社会の仲間に入ることができた。
今度は医学界の折り紙つき。

★☆★☆★☆★
いみがわからねー

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