★分かたれた未来★

セシルは適合試験に順調に合格していった。
とうとう暗黒の施術を受けることとなった。
カインはセシルが施術を施されている間、バロンの広場で待っていた。
あわただしく、看護兵が出入りしている。
最終候補に残った者も同時に施術を受けている。
日が暮れかかった時、担架に乗せられ布をかぶせられた者が施術室から出てきた。
広場はどよめいた。
恐らく、暗黒の施術中に命を落とした者だろう。
布から覗く髪の色は黒だった。
セシルではない。カインは心を落ちつけようと深呼吸をした。

長い時間をかけて、セシルが施術室を出た。
カインはセシルが宛がわれている部屋まで見舞いに行った。
包帯を巻かれたセシルがベッドの中でうわごとを言っている。
あまりに痛々しい様子に、カインはベッドに駆け寄り、セシルの手を握った。
顎が小刻みに震えている。
「・・・イン・・・カイン・・・」
セシルの声が響く。自分の名前を呼んでいる。
「セシル・・・セシル・・・」
カインはセシルの耳元で囁くように呼びかけた。
セシルの瞳がうっすらと開く。
しかし、その瞳には何も映っておらず、視線は交わることが無かった。
睫毛をふるわせ、焦点の合わない瞳を彷徨わせる。
「セシル」
カインがセシルの頬に手を充てた。
セシルは瞬きをすると、カインの存在に気がついた。
「カイン」
朦朧とする意識の中で、カインを見つける。
まどろむような瞳で、口元に笑みを浮かべていた。
「セシル?」
病人のような恍惚状態に陥っているセシルに、カインは不安になった。
「カイン・・・体が、熱い」
セシルはカインに凭れかかった。
麻酔の中には、恍惚状態に陥らせる種類のものがある。
快楽を呼び覚ますことで、痛みを紛らわす効果を発揮する。
カインは薬学の本に書いてあったことを思い出していた。
恐らく、セシルに処方されている麻酔はこの手のものだ。

生々しい傷に包帯を巻かれ、血の跡が残る体で快楽に悶えるセシルは扇情的だった。
セシルはカインを導く。
カインは、誘われるがままに、セシルに口付けた。
セシルの舌がカインの舌に絡まる。
湿り気を帯びたその舌は、いつもより熱く絡みついてきた。
カインもそれに応える。

「・・・んっ・・・」
セシルが身じろぎをした。痛みと恍惚を同時に感じ、眉をしかめた。
その苦しげな表情にどうしようもなくそそられて、カインはセシルを抱きよせた。
セシルの下肢をまさぐると、セシルのものは既に勃ち上がっていた。
指を絡ませ、上下に動かす。
「はぁ・・・」
セシルが瞳を閉じ、快楽に耐える。
先端に爪を立てると、セシルが果てた。
カインの手を白濁が汚している。
麻酔の力もあり、セシルの体にはゆっくりと快楽が広がって行った。
絶頂の気の遠くなるような快楽はいつまでも体の中にわだかまり、セシルの思考を真っ白に飛ばした。

「カイン・・・もっとぉ・・・」
惚けた顔で、セシルが懇願する。
今や痛みの苦痛はセシルの顔から消え失せ、血の気の無かった顔は桜色に上気していた。
カインはセシルが放ったものを指に纏わりつかせ、後孔に触れた。
ゆっくりと指を入れて行く。
「あぁ・・・」
カインの指の冷たさを感じ、セシルが身悶えた。
熱い内部がうごめく。
こねるように中を掻き回す。
「ふぅ・・・」
緩慢な快楽に、セシルの腰はくねる。
セシルの体を気遣うカインは、ことさらゆっくりとセシルを溶かして行った。
カインから与えられる快楽は際限が無かった。
つま先から頭の先まで、じわじわと快楽の波動を感じ、セシルはまどろんでいき、現実と夢想の区別が曖昧になっていった。

快楽にセシルの腹筋は小刻みに収縮し、腹部からは血が滲み出している。
「カイン・・・挿れて・・・」
セシルが強請る。
後孔がきゅっと締まる。
「ダメだ、セシル。体が持たない」
セシルの手が、カインの股間を彷徨った。
カインはセシルの手をやんわりと振り払う。
今挿入してしまったら、腹部の傷口はまず開いてしまうだろう。
カインはセシル自身に手をかけ、愛撫した。
「はぁ・・・」
上下に手を滑らせ、しごきあげる。
「んっ・・・ん・・はぁ、あっ」
セシルが二度目の絶頂を味わった。
額に汗を浮かべながら、喘ぐセシル。
背を反らし、快楽に身を浸すと、力を抜いた。
セシルはとうとうまどろみの中に沈んでいった。

カインは眠りに就いたセシルの髪を撫でた。
とうとう暗黒騎士になってしまった。カインは思った。
セシルの前途には一体何が待ち受けているのか。この手術は成功したのか。
カインの頭の中にはいろいろな考えが浮かんでは消えた。
包帯を巻かれて横たわるセシルは麻酔のせいもあるが、幼い子供のように思えた。
風邪をこじらせた子供が、夜中に不安になり、母親の手を求めているように感じられた。
セシルが手に入れたかったもの、それは、不安な時に手を差し伸べてくれる、家族のような存在だったのかもしれない。
自分ではセシルの家族にはなれないのだろうか。
手を差し伸べることだったら、いつでもしてやるのに。
セシルが求めた、バロンでの居場所、それを自分は与えられないものなのだろうか、カインは思い悩んだ。
しかし、それはもう済んだことだった。
セシルは暗黒騎士の道を選び、その施術はすでに完了してしまった。
竜騎士のカインとは違う道を選んだ。
未来はカインが望んでいたのとは違う方向に、既に拓かれてしまったのだ。

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