★La joie est forte comme la douleur★

この世界で戦うこと、それが二人にとっての幸福だった。
むしろ、この世界には灰色の渓谷以外に何もなかったので、戦うことくらいしかすることが無かった。
剣を振り、敵と刃を交える。その無機的な感触を手に感じる度に、頭の中には過去の自分の映像が流れてきた。
剣から飛び散る火花。
セシルはカインの邸で剣を交えたことを思い出していた。
やっぱり、僕たちは幼いころから会っていたんだ、セシルは安堵していた。
まだ幼さの残るカインが誇らしげな顔をして自分に剣を教えている様子。
この力関係。月の渓谷にあっても、セシルはカインに頼り、甘えるような関係となっていた。昔から変わっていない、そう思えることがうれしかった。
自分とカインの関係、一緒にいることの自然さを、過去の自分たちが証明しているように思えた。

カインの方でも、過去の映像は次々に頭の中に流れ込んできていた。
しかし、セシルのように幸せな光景ばかりではなかった。
バロンを取り巻く森へ、セシルと遊びに行った記憶。木漏れ日の中をセシルが銀糸の髪を揺らしながら駆けて行く。麗しい思い出。
しかし、そこに突然影が落ち、真っ青な顔をしたセシルが、涙を流しながら剣を握る映像が流れ込んだ。
「本当は戦いたくない。でも僕は戦わなくちゃいけないんだ」
そう言って、セシルはおぞましい声を上げるモンスターの群れの中へ消えて行った。


カインは地面を蹴り、空高く舞い上がった。
一直線に敵へ降下していく。
高速での降下を試みると、カインの目には、夜空の星が流れ星の如く曲線を描くように見えた。
無数の星が駆け巡る。
その一瞬間で、カインは過去の映像を見た。
同じようにジャンプする自分。構えた槍を敵に着きつける。
黒い甲冑で全身を覆った相手。その邪悪な鎧に、槍が突き刺さり、ひびが入った。
砕け散る兜。
カインは顔を上げると、そこには顔の半分だけ甲冑から覗かせたセシルが立っていた。
運命を受け入れた人間の顔。
自分の死を見つめているような瞳とかち合う。
暗黒の甲冑からこぼれ出たセシルの髪の銀色。その目もくらむようなコントラスト。
突き刺さった槍の傷口から溢れだす血。
それなのに、セシルはうっすらと笑みを浮かべた。

なぜ!

カインは戦いの最中でありながら、眩暈を感じた。
しかし、落下の軌道は変わらない。カインの槍は狙い通り、イミテーションに突き刺さった。
無機物を砕く感触が手に広がる。
カインは安堵した。肉を引き裂く感覚でないことが救いだった。
なぜ、セシルに刃を向ける映像を見たのか。
元居た世界で、自分とセシルは敵同士だったのか。


星空の下で、カインとセシルはいつものように抱き合った。
鎖骨に唇を落とすと、セシルが幸せそうに顎を仰け反らす。
胸の突起を押しつぶすようにこねる。
セシルの口からは切ない吐息が漏れた。
滑らかな肌。カインの大きな手がセシルのわき腹を撫でる。
セシルはそれだけで身を震わせた。

カインの切先がセシルにめり込む。
ゆっくりと開かれていく感触に、セシルは身悶えた。
膝を自ら抱え上げ、甘ったるい衝撃に耐える。
カインはセシルから与えられる強烈な快楽を感じながら、頭の中ではチカチカとフラッシュが瞬いた。
自分の下で、頬を上気させて喘ぐセシル。
その顔に、真っ青な顔をして叫び声をあげるセシルが重なった。
「あっ・・はぁ、カインッ、あぁ・・・」
潤んだ瞳で見上げてくるセシル。
瞳孔が開き切り、絶望に身を捩るセシルが重なる。
―いやだ!もう戦いたくないー
セシルの白い手がカインの首元に巻きついてきた。カインの滑らかな金糸に手を浸す。
自分の指の間をカインの髪が流れて行く様を眺めながら、セシルが微笑む。
そうだ、この白い指は何かを愛でるために存在している。カインは思った。

しかし、記憶の中のセシルは白い手を暗黒の籠手で覆い、小さな子供の首を絞めていた。
子供は口から泡を吹きながら、体を仰け反らせている。
セシルの恐ろしく強い力は、子供を地面から浮き上がらせ、首だけを支点に持ち上げている。
カインは息を詰まらせた。

「ぁ、ああぁ!」
セシルの嬌声。セシルが白濁を放つ。
そのタイミングで、イメージの中のセシルが子供の首をへし折った。
セシルの内部は痙攣し、カインに絡みついてきた。蠢く内部に搾り取られるような感覚に、カインは中に欲望を放ってしまった。
「んぁっ・・・はぁ・・・」
セシルはカインの濁流を感じ、体を震わせた。
カインがセシルの上に倒れ込む。
カインは罪悪感のようなものを感じていた。
セシルがカインの肩の上に顎を乗せ、余韻に浸っている。
息を弾ませながら、自分に甘えてくるセシルを、カインは抱きしめた。

記憶を少しずつ取り戻して行くこと、それを幸福だと思っていた。
しかし、この記憶は幸福ばかりではないようだ。
もしかしたら、セシルは、何かとてつもなく大きな罪を犯した結果、この誰もいない不毛な世界へ送り込まれたのではないか。
これは何かの罰なのではないか。
でなければ、戦う理由もわからず、こんなに沢山の敵に囲まれ毎日戦闘を繰り返さなければいけない理由はない。
この戦いで得るものなど何もない。
カインの頭にはあらゆる予想が駆け巡った。

目を伏せながら、口付けを求めてくるセシル。
その表情が泣いているように見えて、カインはセシルを抱きしめた。
この世界で何もかも忘れてただ抱き合うこと、それが自分たちにとって、何よりの幸福なのかもしれない。
カインは過去を思い出すことが少し恐ろしかった。
記憶が無いことも恐ろしかったが、その記憶を取り戻し、今の幸福が瓦解してしまうことの方が恐ろしかった。

セシルが脚をカインの腰に絡ませる。
強請るように腰を擦りつけられ、中から刺激され、カインもまた大きさを取り戻した。
ゆるゆると上下に動きだす。
「んんっ・・・」
カインが出したもののぬめりを借りて、動きはスムーズだった。
「はっ、あっ、あぁ・・・」
大きく揺さぶられ、セシルが喘ぐ。
銀色の髪がふわふわと揺れた。

この世界では闘うことしかできない、カインは思った。
闘うことをやめるとは、すなわち死ぬことだ。
過去の自分たちにどんな因果があろうとも、例え敵国の将同士であろうとも、この世界にいる限りは愛し合っていられる。
カインの中では歓びと苦痛がせめぎ合っていた。
しかし、目の前のセシルの幸福そうな顔を見ると、カインの心は歓びの方に屈した。

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