★僕が出会った、たった一つの愛★

自分の姿をかたどったイミテーションに止めを刺す時、セシルの頭の中には自分の過去の様子が浮かんだ。
イミテーションと同じように漆黒の鎧に身を包む自分。
沢山の兵士たちと共に飛空挺に乗り込み、一つの集落へ降り立つ。
暗黒騎士団が集落へなだれ込む。そこには魔道士の集団が待ち構えていた。
詠唱された魔法が次々と自分たちに襲いかかる。
サンダラの眩しい光線。
イミテーションの体に剣が食い込む。
魔法の攻撃を受けた自分の腕が半ば吹き飛び、血が流れる。
しかし、暗黒の鎧が千切れた肉の修正にかかる。
セシルは攻撃を受けていないはずなのに、腕に痛みを感じていた。
イミテーションが気味の悪い笑いを浮かべている。

暗黒騎士たちは次々に魔道士を倒して行った。
体力のない魔道士は疲弊した体を引き摺るように逃げ回っている。
勝利は目に見えていた。もう戦う必要などない。
しかし、自分の体は言うことを聞かなかった。
セシルは頭の中に流れてくる映像に動揺していた。
「・・・なぜ・・・」
剣を持つ手が震える。
「死神め!」
イミテーションが砕け散る。
金色の破片が飛び散る。
その光は魔道士が唱えたファイラになった。
魔道士が刃向おうとしている。魔法をかき消すように振り払い、魔道士の体に剣を付き刺した。
手には肉を斬る感触が鮮やかに浮かんできた。
「もうやめろ・・・」
セシルは自分の両手を擦り合わせ、その感覚を打ち消そうとした。
魔道士が断末魔を上げた後、絶命した。
イミテーションの光の破片は消え失せると、映像は終わった。

セシルは自分の纏っている禍々しい鎧を見つめた。
自分の体の中にある因果。
今までの業を思い出した。
セシルはカインを振り返った。
カインの厳しい目がそこにあった。
「カイン・・・」

「セシル・・・お前も見たか。魔道士の村に攻め入るところを」
セシルは震えていた。
しかし、カインも同じものを見ていたことに喜びを感じていた。
やはり、カインは同じ世界で、同じ物を見てきた仲間だった。
「あぁ、思いだした。自分がしてきたことを」
カインも同じく動揺していた。
できることなら、セシルが記憶を取り戻さなければいいと思っていたからだ。
この世界だったら、セシルが自我を失ってしまうこともない。戦いは元居た世界と同じように厳しい。しかし、ここでは暗黒の力がセシルの精神を侵すことはなかった。
「セシル。ここにいれば大丈夫だ」
カインは震えているセシルを抱きしめた。
「ここではもう人間を殺さなくていい」

セシルはカインに抱かれながら、また過去を思い出した。
自分の思い出には、どんな時にでもカインがいた。
自分が自我を失ったら、カインが止めを刺す、そう約束した。
カインはセシルのたどる運命の最後の番人だった。
セシルはカインの握っている槍を見た。聖なる力が宿る槍。

「この世界にいることは不自然だ」
セシルは言った。
ここで敵と戦うことが何になる、そうカインも思っていた。
「僕たちは元の世界に帰らないといけない」
カインは目をつむった。
「わかっている。しかし、帰ってしまっては・・・!」
「帰ったら、きっと僕は戦いの中で自我をなくしてしまうだろう」
この世界へ来る前の最後の光景を思い浮かべた。
闘う人形と化したセシル。あの時、すでにセシルの自我は失われていたはずだった。
「でも、帰らないと。やるべきことは、あの世界にあるんだ」
カインはセシルの顔を見た。
穏やかな微笑がそこにあった。

「ねぇ、その槍で、僕を刺してくれないかな」
「ッ・・・」
カインはセシルが言おうとしていることを理解した。
元の世界に帰り、何かを成し遂げるのはカインだ。
セシルは元の世界の人間を殺す人形となるよりかは、ここでカインに殺されることを望んだ。
「自我を無くす前に、君の手で・・・」
カインは槍を握る手を強めた。
ホーリーランスでセシルを貫く。それが元の世界で、自分に託されたことだった。
実際に、カインは覚悟を決め、セシルを止めようとジャンプを試みるに至っていた。
カインは再び目を閉じた。
全ての物事が帰結へ向かって進んでいるんだ。
自分たちがこの曖昧な世界で、空中に浮かんだまま制止しているわけにもいくまい。
カインは閉じていた目を開け、セシルを見据えた。
以前と変わらない信頼。

セシルはカインの意志を感じ取って、安心したように体から力を抜いた。
カインと戦えることが幸福だった。
しかし、その幸福の裏側に恐ろしい因果があるとしたら、自分はそれに報いなければならない。

セシルは微笑んだ。
自分の過去に思いを馳せた。
親が無かった自分、人と違う容姿をした自分を誰も受け入れてはくれなかった。
子供のころは孤独で仕方が無かった。皆が自分を探るような、あからさまな目つきで眺めた。
暮らしているその街の掟に従い、そこで何か功績を得ようとした。
そうやって、もがくことで、余計に世間との隔たりを感じていた。
しかし、カインだけは違った。自分に手を差し伸べ、自分を、光の方へ引き揚げてくれた。
カインがいることで、自分がいた暗い場所は、守るべき故郷となった。
温かい光。

「カイン、僕が出会った、たった一つの愛」

カインがホーリーランスを構えてセシルの元へ脚を踏み込む。
その鋭い視線の中に、セシルは光を感じた。
カインの正確な突きが、セシルの胸に突き刺さった。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆
死にネタにはしません

[ 14/14 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -