★ムーンライト伝説★

目が覚めた時、カインは灰色の大地に倒れ込んでいた。
辺りには何もなく、ただ荒涼とした渓谷が広がっている。
カインは自分がどこにいるのか探ろうとした。
自分が知っている土地を思い浮かべ、そこから比較して、現在地を割り出そうとした。
しかし、カインは自分が記憶を失っていることに気がついた。
何の風景も、頭の中に思い描くことはできなかったからだ。

しばらく目的もなく歩いていると、突然自分に襲いかかる者があった。
クリスタルのように無機質な肉体をしている事物が、突然斬り込んできた。
咄嗟のことではあったが、カインは持ち前の運動神経で交わし、反射的に槍を構え、反撃した。
カインは驚いた。
戦いに慣れ切った己の肉体。自分は戦士だと理解した。
何度も反復して訓練した槍術を繰り出して行く。
攻撃を充てて行く内に、紛い物のクリスタルで出来た敵は砕け散った。
星空の淡い光を受けながら、クリスタルは銀色の光を反射させ、キラキラと輝きながら散って行った。
その輝きをぼんやりと見ていたカインは、頭の中に一瞬フラッシュバックが起こった。
何か銀色に輝くもの。
光の中に輝く銀色がふわふわと揺れる。それは糸の様に滑らかに風に漂った。
銀色の髪・・・?
渓谷に広がる闇の中に、クリスタルの敵は消えるように溶け込んでしまった。
戻りかけた記憶にも闇が降りかかる。
カインは頭を振り、歩を進めた。

それから何日か、カインは当てもなく渓谷を彷徨っていた。
頭上に幻想的な宇宙が広がる土地。青く輝く星と白い星が衛星の様に付き従う。
カインの記憶は曖昧なままだったが、この星の中に故郷を感じられるような場所は無かった。
むしろ、あの青い星の方に懐かしさを感じていた。
自分以外の人間が存在しないこの大地を彷徨い、敵に負けた時、自分は孤独に死んで行くのだろうか。
そんな考えがよぎった。
しかし、カインにとって、その考えは恐怖を起こすようなものではなかった。むしろ、何かから解放されたような、心地良い孤独と自由を感じていた。

余計な考えを頭から追い出すように、カインは足早に進んだ。
もう何日も歩き詰めだ。
そろそろ何か村や集落のような人間の生活の場に出くわしても良いころだろう。
進んでいくと、クリスタルで作られた塔のようなものを遠目に発見した。
これまで戦ってきた的と同じような物質で出来ている建物。
カインは警戒しながら、歩いた。

灰色の崖を歩いていくと、人影を見つけた。
戦闘態勢を維持しながら、静かに間合いを詰める。
どうやら、今までの敵のようにクリスタルの肉体はしていないらしい。
敵意などまるで無さそうに、茫然と立ち尽くしている。
そこには、頭上に輝いている青い星の光を受ける、セシルがいた。

恐らく、相手は自分と同じ人間だ、という安堵感がカインに広がった。
カインの気配にようやく気がついたセシルは、カインの方へ振り返った。
銀色の髪がふわっと空に広がった。
その光景は、カインがクリスタルの敵を倒した時に見えた映像と重なり、鋭い既視感を起こさせた。
カインは一瞬よろける。
極上の絹の糸のように舞う銀糸。
星の輝きを映したすみれ色の瞳とぶつかる。
カインはその輝きにすっかり搦め取られてしまった。

身動きのできないカイン。
セシルはカインの陥った状態に少し首をかしげながら、
「君は・・・?」
と問いかけた。
優しい声色。無表情のまま立ち尽くしていた顔に浮かんだ笑み。
相手に敵意が無いどころか、自分を迎え入れるような態度であることカインに伝わった。
好意的に向けられた笑顔だが、その笑顔が何か途轍もなく大きな悲しみと誰にも癒せない孤独を背負っているようで、カインは初めて会った彼を抱きしめてやりたい衝動にかられた。

二人はしばらく向き合っていた。
掛けるべき言葉を見つけられないでいた。
「恐らく、俺はお前の敵ではない・・・」
カインが口を切った。
「敵・・・?」
「ここに来るまでに、クリスタルの様な体をした者に何度も襲撃された。あれが敵だというのなら、俺はお前の敵じゃない」
セシルは納得したような顔をして頷いた。
「確かに、あれには手を焼いた・・・」
また沈黙が落ちた。

「お前は、ここの住民か?」
カインに問われ、セシルは目を泳がせた。
「実は、わからないんだ。なぜ自分がここにいるのか、思い出せなくて・・・」
うまい説明方法を見つけられず、セシルはまた口を噤んだ。
「でも、この世界は何だか妙に懐かしいんだ。自分のことも思い出せないのに、おかしいかな」
そう言って寂しそうに笑った。
カインは意外な気持ちがしていた。セシルの存在はこの渓谷に溶け込むようにしっくりしていた。もともと、この星に生まれ、ここで暮らしていたかのように、彼がそこに立っていることは自然だった。
この荒涼とした土地で、どうやって暮らしを立てるのか、想像できなかったが、彼の故郷はここだろうと判断した。
「俺にも記憶はない。お前と同じような状況だ。だが、俺はこの世界に懐かしさは感じない。頭上に浮かんでいるあの青い星の方に見覚えがあるように思える。だから、きっとお前の故郷はここなんだ」
何の根拠もないカインの言葉に、セシルはなぜか安心感を感じて頷いた。
はにかんだようなその笑顔を見ると、カインはうれしくなり、共に笑い合った。

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月ーの光にーみーちびかーれー何度もー巡り合うーー
説明書き、ちょっと変えておきました

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