★Good night sweet dream★

次の任務はミストのモンスター退治だった。
あまりに憔悴の色の濃いセシルのために、カインはミストへ同行することとなった。

ミストへの道すがら、二人は口を気かなかった。
セシルの体力はミシディアの戦いのために落ちてしまっていた。
洞窟を抜けるころには、セシルの疲労はピークに達し、テントで一晩を明かすこととなった。
夜が訪れ、二人は早々に体を横たえ、就寝しようとしていた。
カインが心配そうにセシルを見やる。
一言も言葉を発しないセシル。
もう眠っているのかと思いきや、仰向けになり、礼儀正しく脚をそろえた格好のまま、瞳だけは開いていた。
人形が横たわっているような格好に、カインは少しひやりとした。
「・・・セシル、眠れんのか?」
セシルの体を気遣い、カインが問う。
セシルの虚ろな瞳が、カインの方を向いた。
幽霊のようなその表情。
「急に孤独で仕方がなくなることがよくあるんだ」
ぽつりぽつりと、セシルは話し始めた。
「夜、目がさめて、自分がどこにいるのかわからなくなることがある。何のためにここにいて、何のために生き続ければならないのか。突然不安になることがある」
カインはここ数カ月のセシルの激務とも言える戦いっぷりを思い出していた。
そして、孤児だったセシルの少年時代にも思いを馳せた。
セシルが孤独や不安について、話したのは今日が初めてだった。兵学校で孤立していたセシルだったが、それに対してカインに話したことはなかったのだ。
「戦場にいる時、剣の扱い方だとか、暗黒の力の使い方だとか、そういう記憶はあるんだ。でも、その通りに体を動かしているのは僕じゃないような気がしてならなかったんだ。どうして僕は命令に従うんだ、一体誰からの命令だ、ずっと頭の中をこんな疑問が巡ってる。でも体は全く違うように動く。疑問の答えを探しているうちに、気づけば人を殺している」
テントの中に横たわりながら、セシルは一気にまくしたてた。
全く表情の無い顔から、あまりにも滑らかに発せられる言葉。
「僕は恐ろしい。僕の体なのに、動かしているのは僕じゃないんだ。本当は戦いたくない。戦う自分を制御できない。でも、だめなんだ。僕は戦わなくちゃいけないんだ。王のために。僕は陛下がいて下さらなかったら森の中で飢え死にしていた。陛下のおかげで今の僕があるんだ。だから陛下のために報いないといけない。そのためには戦わないといけないんだ」
徐々にセシルの声は震え始めた。
カインは起き上がり、セシルの髪を撫でた。
「疲れているんだ。今は休め」
セシルはカインの手のひらの温かさを感じ、瞳を閉じた。
「僕は正しいことをしているんだよね?」
縋るような瞳でカインを見る。嗚咽をかみ殺す。
「あぁ」
カインは頷いた。
しかし、本当のところ、カインにもこれが正しいことなのかわからなかった。
カインは懐から薬を取り出した。
任務を告げられた時、魔道士から渡された睡眠薬だ。
特殊な調合をされたこの薬なら、暗黒の施術を受けた者でも眠りに就ける。
カインはセシルに薬を飲ませた。
薬がセシルの体に馴染んでいく。カインに抱かれ、安心したセシルはまどろみの中へ沈んでいった。

夜が明けると、ミストの村へ入る。
王から託された箱を開けると、中からボムが飛び出し、ミストの村を焼いた。
木で作られたミストの家屋はたちまち燃えて行った。
セシルとカインはその様子に動揺する。
「なぜだ!バロン王!」
セシルは頭を抱え込み、その場に倒れ込んだ。
体を支えられず、片膝を付く。
震えるセシルを起こそうとカインはセシルに手を伸ばし、固まった。
苦悩に悶えるセシルの瞳は、燃え上がる炎に魅入られ、戦いの予感に輝いていた。
セシルの瞳の中には、暗黒の炎が燃え始めている。
セシルの肩は震える。それは王に対する不信からではなく、これから始まる戦いに対する武者震いだった。
セシルの体は戦いを望んでいる。
それを、セシルの理性は必死で抑え込もうとしているようだ。
今にも剣を抜きたがっている腕をどうにか止めようとしている。

燃え広がる炎に驚いたミストの住民は次々に外へ出た。
中にはバロンの騎士二人が禍をもらたしたことに気づき、剣を持って応戦しようとする者もいた。
カインは市民の攻撃を上手に交わし、市民から武器を奪って降参させていた。
しかし、セシルは止まらない。
剣の代わりに鋤や鍬を持って立ちはだかる農民にまで斬りかかった。
しかし、セシルの理性は火事で助けを呼ぶ、市民の救出をしたがっていた。
なんとか、体を抑え込み、暗黒の剣を地面に捨てた。
剣さえなければ大丈夫だ、まだ理性が残っている、セシルは確信した。

燃え上がる家屋の中に入って行く。
その中では、子供が泣いていた。幼い妹を、兄が必死でかばっている。
「バロンの暗黒騎士!お前が村を・・・!」
セシルの甲冑を見るなり、男の子は叫んだ。
「戦う気はない!君たちを保護する」
セシルが手を差し伸べた。しかし、男の子は女の子を背にしながら、セシルの手を拒み、壁にかかっている斧を取り出し、セシルに刃向ってきた。
「誰が信じるものか!」
斧を振り上げる。セシルは腕を掲げ、子供の攻撃をまともに受けた。大した傷ではない。
しかし、敵意を向けられた瞬間、セシルの暗黒の鎧は、子供に向かって反応してしまった。
素早く、斧を払いのけると、子供の首に両手を掛ける。
「よせ、やめろ!」
セシルは叫ぶ。しかし、腕は子供の首を締めあげる。
「もう嫌だ!殺したくない」
みるみる内に、子供の顔色は赤黒く変色し、口の端からは泡が吹いてきた。
セシルの手の力はどんどん強くなる。
ゴキッと言う鈍い音が立つと、子供は絶命した。
セシルは子供の首の骨が折れる感触を暗黒の籠手の中で感じていた。
女の子が悲鳴を上げる。
セシルの意識はそこで途絶えた。

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