★shout at the devil★

セシルが率いる赤い翼は、ミシディアへ向けて移動していた。
モンスター退治の任務を終えて帰還したセシルに、王はミシディアのクリスタルを持ち帰るように命令した。

飛空挺で近づいていくと、黒魔道士の軍団が既に隊列を整え、詠唱を始めていた。
空には黒い雲が広がり、強烈な雷が起こる。
飛空挺の一つはその雷の直撃を受け、エンジンが燃え上がった。
舵を取られ、まっさかさまに地上へ落ちて行く。
ミシディアとバロンはデビルロードで繋がれ、外交は盛んだった。
しかし、ミシディアの民は、バロンの軍事政策には常に意義を唱えてきた。
強力な武器を作り続けるバロンに、ミシディアは常に抗議をしてきた。
そして、ついにバロンはミシディアを征伐するための宣戦布告をした。
ミシディアはもちろん、武力で応えたのだった。

暗黒騎士の一団が上陸し、ミシディアの領地に攻め入る。
真っ黒な甲冑が街へ入り込むと、黒魔道士の軍団は逃げ腰になった。
しかし、それでも魔法を唱え、挑みかかってきた。
セシルは黒魔道士を相手に戦う。
陸兵隊時代のセシルだったら、相手を殺さずに、武装解除だけさせて、捕虜にしていただろう。
しかし、暗黒騎士のセシルは戦いに対して、容赦ができなかった。
暗黒の剣は、情け容赦なく、黒魔道士に襲いかかる。
唱えられたファイラを打ち消し、暗黒の瘴気が黒魔道士を襲った。
体力の無い魔道士はその瘴気によってみな絶命した。
あっという間に劣勢に立たされた魔道士は降参の合図を送る。
しかし、セシルの剣は一度敵と判断した者に対し、その命が完全に尽き、脈拍が完全に止まるまで戦うことをやめられなかった。

次々に犠牲者が出て行く。
セシルは剣を必死に収めようとしていた。しかし、剣は血を求めて動き出した。
剣を向けられた魔道士はあまりの恐怖に尻もちをつき、叫んだ。
「来るな!化け物!」
セシルの体はびくっと震えた。
「やめろ・・・止まれ、止まれ!」
セシルは左腕を右腕に掛け、剣の暴走を止めようとする。
魔道士はセシルの様子を息を詰めて見つめている。
「よせ!やめろぉ!」
セシルの絶叫するのと、剣が魔道士の心臓めがけて突き込むのは同時だった。
人の肉を斬る感触、喉が引きつったようなセシルの呼吸音が響く。
「なぜ・・・なぜ・・・」
ようやく剣から手が離れた。
恐怖に顔を歪めた魔道士の死体。あまりに凄惨な虐殺。

勝負は完全に付き、ミシディアの長老はクリスタルを渡した。
非難に満ちた顔をして呟く。
「なぜ、もう戦えないとわかっているものたちの命までも奪ったのか」
ミシディアの誇りが光る長老の眼差しは、鋭くセシルを射った。
セシルは無言でクリスタルを手にし、ミシディアを後にした。

バロンへ帰る道すがら、セシルは自分の理性がもう持たないことを感じていた。
暗黒の力を制御することができない。
城へ着き、陛下にクリスタルを渡す。
クリスタルの輝きに、バロン王はニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべて、セシルを下がらせようとした。
「陛下!」
自分を追いやろうとする王にセシルは納得がいかなかった。
「ミシディアの民は争いを望んでおりませんでした。なぜ、こうまでしてクリスタルを・・・!」
王は生気の無い淀んだ瞳をセシルへ向け、応えた。
「セシル、私に意見するのか?」
冷たい瞳。セシルは一歩後ずさった。
王がそばに控えていた魔道士を近くに呼び寄せる。
「どうやら、セシルは疲れているようだ。お前の力で、セシルを癒してやりなさい」
魔道士は無言でセシルに近づいてきた。

戦いが終わると、いつも魔道士は暗黒の鎧の手入れをした。
次々と命を落として行く適合者。精神の乱れや、肉体の限界などを催眠で上手に操るためだった。
黒い甲冑を纏った大柄の魔道士に、セシルは呟いた。
「僕は、もう戦えません」
椅子に腰をかけ、奥歯を噛みしめる。
「暗黒騎士はその命が尽きるまで戦い続ける。それをわかっていて、この道を選んだのだろう」
魔道士は冷たく応じた。
「もうこの暗黒の剣の暴走を止められないんです。戦意のない者の命まで奪ってしまう」
セシルは頭を抱えながら続ける。
「暗黒の力を扱い慣れていないからだ。お前は恐れている。恐れがお前を弱くしている」
魔道士がセシルに一歩近づいた。
「暗黒の力に反発しようとするから、力が体の中で拡散し、暴走するのだ。暗黒に身を委ねよ」
セシルの顔に手をかざし、暗黒の瘴気を送り込む。
「嫌だ」
セシルは気力を振り絞って、魔道士の手から逃れようとした。
しかし、魔道士の大きな手で頭を押さえられ、椅子に縛り付けられた。
「やめてくれ」
震える手で、魔道士の手を退かそうとする。しかし、魔道士とは思えないほどの体躯を持つその男を振り払うことはできなかった。
「やめろっ!うわああああぁぁぁ」
神経に直接暗黒を流し込まれ、セシルが叫び声を上げた。
暗黒の催眠が視神経に達すると、セシルの脳裏には燃え上がるミシディアの映像が流れた。
脳の裏側から直接見せられる景色。
自分が殺した黒魔道士の死体。その死体が焼ける匂い。
「もういやだ!いやだぁぁああ」
半狂乱になって叫ぶセシルを見て、ようやく魔道士は手を放した。
「暗黒に身を委ねろ。何を恐れている。お前はまだ戦える」
「う・・・うぅ・・・あぁ・・・・」
目を見開いたままセシルが呻く。最早その瞳には何も映っていなかった。
震える手で顔を覆う。
「戦うことが騎士の務めだ。バロンの騎士なら、戦って王に報いろ」
すみれ色の瞳から涙が零れる。血の気の無い頬を伝う。
「バロンの・・・騎士なら・・・」
セシルの震えは徐々に小さくなっていった。
必死で呼吸を整える。
「まだ戦えるな?」
魔道士が両手でセシルの肩を力強く掴んだ。
叱責を受ける子供のように小さくなってしまったセシルは魔道士の手に縋るようにして応えた。
「・・・はい・・・」
最後にそれだけ言うと、セシルは気を失い、魔道士の胸に倒れ込んだ。

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