★トロイアの男娼★

軍務で赴いたトロイアで、僕は初めて娼館につれて行かれた。
上官たちは僕のことを冷やかすだけ冷やかして、自分たちだけで遊びに行ってしまった。
僕は一人取り残された。
ここにあるもの全てが物珍しくて、きょろきょろと見回しながら、街の中を歩いていく。

きれいな顔をした女の人が、街の中に立っていて、しきりに男の人に声を掛けているのを眺める。
中には貴族のような立派な男性も混ざっていた。
高級そうなホテルの中に吸い込まれていく。
その様子を見ていたら、僕は一つの考えが頭の中に浮かんだ。

もしかしたら、セシリアは娼婦だったんじゃないかな。
陛下は随分セシリアさんと親しかったみたいだけれど、陛下だったら、どんな女性とだって結婚できたはずだ。
それなのに、結婚しなかったのは、セシリアさんが娼婦で、貴族じゃないから陛下と身分が合わなかったせいじゃないか。
僕は娼館を回って、セシリアという人がいないか訪ねて回ることにした。

僕がフロントに入っていくと、娼婦の人たちはからかうように訪ねてくる。
「僕?何しに来たの?こういうところは初めて?」
甲高い笑い声が響く。かわいいわね、軍人さん?ここで働いた方がいいんじゃなくて?きゃははは
「あの、セシリアという人はいませんか?」
皆が顔を見合わせて困ったような顔をする。
「ここにはそういう名前の子はいないわ。知り合い?そんなナリで遊び慣れてるの?」
ひそひそとさざめきあう。
僕は館を後にした。

どこへ訪ねて行っても、万事同じようなことが起こった。
セシリア、セシリア。
どうして皆セシリアという女の人のことを知らないのだろう。
熱く塗り重ねられた白粉、はがれかけのマニキュア、焚きつけられた香水にだんだん胸が悪くなってきた。
セシリアはどんな顔をしているのだろう。
きれいだった?醜かった?
バロンを追い出されたセシリア。
王が見染めるくらいなら、相当美しかったはずだ。
でも、追い出されることになったのだから、きっと何か恐ろしいことをしたんだ。
バロンから出て行く時は醜くなっていたに違いない。
もしかしたら、娼婦の中で、最も醜い人がセシリアなのかもしれない。

考えながら歩いていると、どんどん具合が悪くなっていった。
少し腰を降ろして落ち着きたいと思って、僕は人気のない裏通りに入る。
物影で一息付く。
木箱の上に座っていたら、何かうめき声のようなものが聞こえてきた。
僕はびっくりしてあたりを見回した。
暗がりで誰かが倒れているようだ。
ほとんど銀髪に近いブロンドの女性だった。
彼女はひどく痩せていて、骨の様な手をこちらに翳しながら喘ぐように言った。
「何をしているんだい?・・・はやく薬をよこしな」
落ちくぼんだ目できつく睨まれ、僕は後ずさった。
「主人の命令が聞けないのかい?下種な召使め!」
そう言うと、立ち上がって、僕の所まで来ようとした。
しかし、腕に力が入らないようで、女の人はその場に倒れ込んでしまった。
「大丈夫ですか!?」
僕は急いで駆け寄った。本当は恐ろしかったけれど、見捨てるわけにはいかない。
「気安く触るんじゃないよ!私は女王様だよ!私は・・・私は・・・」
女性は僕の手を跳ねのけると、爆発的に泣きだした。
「どうして私は女王様なのに、皆私に酷いことをするんだい。うぅ、うぅぅぅ」
ぱさぱさになった髪を振り乱しながら叫んだ。
「お前も私を笑いに来たのか!?殴りに来たのか!?えぇ?」
女性が僕の肩を掴んでまくしたてる。僕は怖くなってとうとう逃げ出してしまった。

裏通りを全速力で走りながら、僕は恐ろしいことを考えついた。
あの女の人は自分のことを女王だと言っていた。あの人、昔は高級娼婦だったんじゃないかな。王族相手ができるくらい。
僕はあの人とバロン王が一緒にいるところを想像した。
もし、バロン王に気に入られて、結婚の約束でもされたのなら、自分を女王と思ってもおかしくない。
でも、きっと陛下の気まぐれで、あの女性は捨てられたんだ。
それで、またトロイアに帰ってきたのではないか。

銀色に近いブロンド。
もしかしたら、あの人が僕の母親なんじゃないか。
もしかしたら、あの人が、セシリア・・・
そこまで考えたら急に胸が詰まって走っていられなくなってしまった。
壁に縋りついて倒れる。
胃がひっくり返ったようになって、僕は吐いてしまった。

やっぱり、セシリアは醜かった。
あの人にセシリアかと聞く勇気がなかった。どんな顔をして会えばいいのだろう。
セシリアさんはここで、こんなひどい生活をしているのに、僕はバロンで王の援助で暮らしている。
そんな話をしたら、セシリアさんは僕を許さない。
僕にはまた一つの考えが閃いた。
僕はセシリアと同じくらい、不幸になるべきだったんじゃないか。
兵学校では皆が僕を遠巻きに見ている。貴族たちだって、僕を見て、悪い噂を立てる。
王のお稚児さん。王の飼い猫。
本当だったら、僕は娼館に拾われて育てられるはずだったのかもしれない。
そこを偶然、バロン王が拾ってくれただけなのかもしれない。
僕はセシリアさんと同じくらい、不幸にならないといけないんだ。

僕は、来た道を引き返し、セシリアがいないかと尋ねて回った館の一つに入って行った。
「すみません。僕をここで働かせてくれませんか?」
機嫌の悪そうに羽根で出来たセンスを広げ、仰ぎながら立っている娼婦に話しかけた。
「また来たの?坊や。やっぱりあなた、ここで働きたかったのね。あなたなら沢山お客がつきそうだわ」
真っ赤な唇をニィっと開き、笑みを浮かべながら、僕を別室に連れて行った。
「まずはその軍服はいけないわね。違う服、可愛い服がいいわね」
衣装の掛ったクローゼットの中から、洋服を選び出す。
「これなんか似合いそう。着てみなさい」
フリルのたくさん付いたワンピースを広げながら、言われた。
僕は言われたとおりに着替える。
「やっぱり似合うわ!ちょっと女にしては逞しいけれど」
ふふっと笑って髪を撫でられた。

僕は待合室につれて行かれ、お客さんが来て、僕を指名してくれるのを待っていた。
来る人来る人が、僕の顔をじろじろ見て、こそこそ話をしているけれど、僕が男だとわかると、違う人を指名した。
待合室はだんだんと人数が減って行った。
もう一人の客が入ってくる。
「なんだ、一人しかいないのか。お前、来いよ。可愛い奴だな、新入りか?」
少し乱暴だけど、優しそうな顔をした男に僕は質問し返した。
「僕、男だけどいいの?」
男の客に聞いてみると、本当かよ、と驚いていたけれど、他に娼婦はいないし、仕方ないからお前でいいや、と言って、部屋へ連れ込んだ。

階上の部屋のドアをバタンと閉め、僕をベッドの上に放り投げる。
男は早急に僕のスカートをまくりあげて、パンツを脱がせた。
「痛っ、いや、いきなりっ・・・ぅんっ・・・・」
男は僕のお尻を両腕で開きながら、無理矢理押し込んでくる。
「やっぱりちょっときついな」
抜き差しを繰り返しながら、ゆっくりと入り込んできた。
僕は一生懸命力を抜いた。
「なんだ、処女じゃないのか。いやに慣れてるな」
そう言いながら、腰を使いだした。始めはただ痛いだけだったけれど、だんだん気持ちよくなってきた。
「うぅ・・・はぁ・・・あっ・・・・あん」
シーツを掴みながら快感に耐える。
「感じてきたな」
腰の動きが速くなっていく。
「あっ、あ、はぁん、ああ・・ダメ」
激しい突き上げに、僕の腰は勝手に跳ねてしまう。
男は腰を両手で掴み、動きを封じる。
「あっ、いやっ、はげしっ、はっ、あ、あぁ」
押さえつけられて、強すぎる快感から逃げられない。
僕は口の端から唾液を零しながら喘いでしまった。
「も、だめ、あ、あ、あぁぁ」
ひと際強い突き上げの後、男は僕のナカに熱いものを放った。
腰の奥に濁流を感じる。
僕も痙攣しながら、イってしまった。

頬をシーツに押し付けて、息を弾ませていたら、男が僕の体を仰向けになるよう、ひっくり返した。
「んぅっ!」
ナカに入れられたままのものが擦れる。
「お前、きれいな顔してるな」
男が僕の顔を撫でる。
「きっとお前のお母さんも美人なんだろうな。男の子は母親に似るって言うしな」
頬にキスされる。
また腰の動きが再開した。
「あっ、んぅ、んん・・・ふっ」
男は僕の顔を両手で包むと、口の中に舌を入れてきた。
タバコ臭い舌が嫌で僕は体をよじった。
「ん、んぅぅ、・・・はぁ、あ・・・んん」
顔を振ろうとしたのを、手で阻まれ、舌を絡ませてくる。気持ち悪い。
息ができない。意識がもうろうとしてくると、男が腰を僕のお尻に擦りつけて、2回目を出した。
「本当に美人だな。お前のお母さんもこの辺の娼館にいるんだろ?今度3人でやろうぜ」
僕はセシリアのことを思い出した。そうだよ、僕の母親はこの街にいる。
そう思ったら、泣けてしまった。
僕から出て行った男は、僕を床に押し倒した。
「やっ・・・何を・・・?」
太股に男が出したものが伝わる。生温かい嫌な感触。
「お前、化粧してみろ」
男がドレッサーに置いてあった、他の娼婦の化粧道具を探る。
あれでもない、これでもない、と言いながら、一本の口紅を取り出した。
「お前みたいな病的な雰囲気に相応しいのを見つけた」
男が紫色の口紅を手に持って、僕の顎を掴んだ。口紅が引かれる。ぬる付いた感触が唇を走る。
「やっぱり似合うな。この世の人間じゃあないみたいに見えるぜ。月の妖精みたいだ」
お前を見ているとなんとなく詩的な気分になっちまうと言いながら、上機嫌で紫の口紅を投げてよこした。

この夜初めて、僕はお金を稼いだ。
これがきっと本来あるべき僕の生活だったんだ。
お金がもう少したまったら、セシリアのところへ行こう。
そして、全部渡すんだ。

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