★カイン★

私は気付いた。
セシルに纏わりつく、金色の影。
カイン。

彼は私がこの手のひらの中で弄んだバロン王の手のひらの中で転がされていた。
兵学校で、他の生徒たちがセシルを遠巻きに見つめる中で、初めてセシルに近づいた男だ。
バロン中の市民に尊敬される王を、唯一憎んだ男。
カインの中にも、セシルと同じように清廉な光が輝いていた。
まだ完全でないが、高潔な光。

バロン王の手から、セシルを救い出そうとする光だ。
私はカインの心が手に取るようにわかった。
セシルの瞳の光に囚われた心。
野蛮な独裁者の手から、姫君を救い出そうと戦う英雄の像を自分の中に夢見ている。
しかし、その心の中には、自分がその独裁者に取って代わって、セシルを支配したいという独占欲の炎が燃えたぎっていた。
そして、カインは騎士故にそれを恥じていた。

常にセシルを正当法で救い出す方法を考えてはいたが、救い出した後、自分がセシルにしたいと願う欲望を隠しきれずにいたのだ。
私はほくそ笑んだ。
カインは私に似ている。

カインに私の肩棒を担がせてやろう。
セシルのため、という大義名分を与えたら、カインはどこまで堕ちることが可能か。
私はそれを見届けてやろうと思った。

私はセシルに催眠術を掛けた。
カインをセシルの元まで呼び寄せる。
セシルはカインに凭れかかった。
カインが面白いほどに狼狽する。
心の「だめだ」と叫ぶが、体が言うことを聞かない。
とうとう、カインはセシルに口づけた。

セシルの喘ぎがカインの耳の中に木霊する。
その声はカインの耳から溢れだし、首筋を這い、胸元に達する。どろどろとした欲望を呼び起こし、カインを支配していく。
「セシルが欲しいのだろう?」
私はカインの耳元で囁く。最も恥ずかしい神経を逆なでするように。

カインが快楽に顔を歪め、セシルの中へ埋もれて行く。
セシルをきつく抱きしめると、その中に欲望を放った。
カインは唖然とした顔をセシルへ向ける。
一度理性の砦が瓦解してしまえば、後はなし崩しだ。カインは快楽の渦に堕ちて行くしかない。
それは私に対する敗北であった。

カインの朦朧とする頭に私は命令を吹き込む。
「世界の秩序はクリスタルが握っている。そのクリスタルを全て手に入れれば、世界の秩序はすなわち、お前のものだ」
「馬鹿な・・・」
最後の力を振り絞って、私に抵抗を試みる。
こんなよわよわしい抵抗など、無いに等しい。
「他国を滅ぼすことなどわけもない。もちろん、バロンだってな。お前の憎む陛下を殺し、お前は世界の頂きに君臨することとなる」
「・・・・・・・」
「そうすれば、セシルはお前のものだ」

カインは夢見心地で従った。これで彼は私の駒だ。
セシルを救う、という目的で、彼はダムシアンのクリスタルと奪い取って私の元へ帰ってくる。

私はバロン王ではなく、カインに特等席を与えてやろうと思った。
自分ではセシルを汚すことすらできないことに気づかせてやる。
そして、この私がセシルを暗黒の中へ落とし、その身を我がものにする様子を、最も近い所で見せつけてやるのだ。

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