★ゼムス・コントロール★

バロン王は私が思った通り、セシルを辱めた。
しかし、何度凌辱されたところで、セシルは汚れなかった。
草原を駆け巡るセシル。日の光に輝く銀色の髪。清らかな頬笑み。
その表情には何らやましい所が無かった。
バロン王から与えられるものに対して、疑問を投げかけることも無かった。セシルは全ての物をありのままに受け入れた。

生まれた時からずっとセシルを観察していた私でさえ、セシルの考えはわからなかった。
セシルのすみれ色の瞳には、誰にも抗えない魅力と、誰にも覗けない深淵があった。
その美しいすみれ色に、この世のあらゆる憎しみは濾過され、その害毒がセシルの身に到達することはなかった。

バロン王は焦れていた。セシリアの代わりに、セシルを暗い檻に閉じ込めたつもりではあったが、セシルはどこまでも自由だった。
むしろ、王の方が、セシルのきらめくすみれ色に囚われていた。
その輝きは常にクルーヤの功績を思い起こさせた。

輝くそのすみれ色に、身を浸すことができたらどんなに良いか。
しかし、私は憎しみを捨てることができないでいた。
地獄の業火に焼かれた私に、セシルの光は優しすぎたのだ。この穏やかな光を、私の憎しみで塗りつぶしてしまいたい。

その時、私の頭の中に声が響いてきた。
「憎かろう、弟が・・・」
私はセシルを憎んでいるのか。本当なら、この憎しみは青き星の民へ向けられるべきものだ。セシルは関係ないはず。
「父親の言葉を体現するかの如く、生まれた子供。お前は選ばれなかった」
そうだ、私は父の言葉を理解できなかった。正義よりも正しいこと。
私は他人に両親を奪われた。両親は私に光を与えてくれなかった。

「お前を焦がすセシルの光。お前の様な卑小な憎しみごときでは消すことはできまい」
私に灯った最後の理性。私がこの世界を滅ぼさずにいる最後の理由はセシルだった。
この苦しみの中でさえ、理性を失わなかったのはセシルの持つ光への憧れのため。
セシルが見せてくれた奇跡に他ならない。この光が私の想いを邪魔するのだ。

「お前が望むのなら、真の闇、真の悪というものを教えてやろう」
この光を消さない限り、私はどこへも行けない。
セシルの光をこの手で握りつぶさない限り、私は何者にも成れないのだ。
「私は・・・望む!」

その時、その声の主は大きな声で笑い出した。
腹の底から響いてくるような不気味な声だ。正に悪魔の笑い声。
「よかろう。朽ちた竜の骸より生れし毒虫。お前に力を授けよう」

私の体を暗黒が包んだ。


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兄さんの2942をそれっぽい表現で現したいんですが、なかなかうまく行きません。
第2話で私は憎悪から解放されるーとか書きましたが、え?それどんな理屈?と自分でも思っております。

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