★僕の命を救ってくれなかった母へ★

バロン王は私が憎む人間の姿を端的に現していた。
父に憧れを抱いた人間の一人。
そして、その憧れの像を自分が体現できないと悟った時、父への愛は憎悪へと変わった。
父の功績は自分たちを破滅に導くものだと思い込んだのだ。
父が何か新しいことを始めようと試みると、人間たちは父に罵声を浴びせかけ、その試みを挫こうとした。
ところが、父は成功した。
その功績を目の当たりにして、初めて、人間どもは父の前に膝を折った。
天才を泥の中に沈められないとわかった時、跪いて崇拝するのだ。

人間たちは父を恐れた。意地悪く試みを邪魔した自分たちに、父がその成功した技術で仕返しをするのではないかと恐れた。
父は、もちろんそんな低俗な考えなど、思い浮かびもしなかった。
自分を励ました者にも、自分に反抗した者にも、平等に技術を分け与えた。
人間たちは安心した。しかし、不安はぬぐい去れなかった。いつ、自分たちに父が牙を剥くか、それを恐れていた。

不安は日に日に積って行き、ついに人間たちは決起した。
大勢の人間が武器を手にして父の行く手をふさいだ。
しかし、バロン王はその集団の中に混ざる勇気すら持っていなかった。
自分が手を下さず、他人にやらせる、という考えを持っていたのでもない。
バロン王はその胸に父への抑えきれない憧れを抱いていた。
最も大事にしていた偶像が、踏みにじられる様子。
手の届かないところに常に君臨していた像が、自分の足元まで引きずり降ろされる様を眺めた。
その光景は小心者のこの王を最も慰めたのだ。

私の知り得る限り、最も卑劣な、最も憎むべき人間、それがバロン王だった。
だから、セシルをバロンの森の中に置き去りにしたのだ。

泣きわめくセシルにバロン王は気付いた。
その要望がセシリアにそっくりなことに、王は涙を流した。
セシルの純白の頬に、自らの唇を寄せた。
そして、城へ連れて帰る。
その様子はまさに、慈悲深い王と傍からは見えた。そういう風に見えるよう演出をしているのだ。

王は自分の寝室に赤子のセシルを寝かせた。
そして、私が纏わせた白い産着を脱がせた。
体の隅々を見聞する。
王は、この子がセシリアの生まれ変わりではないかと真剣に考えていたが、その期待は裏切られた。
この子は男の子だった。
その結果から、この子がクルーヤの子供だということに思い当った。
クルーヤの子供!そう感づいたバロン王の瞳からは、先ほど浮かべていた涙は消え去った。
代わりに憎悪の炎が宿った。

しかし、すぐに口元に笑みを浮かべた。
醜く顔を歪めて、笑う。
クルーヤの子供ではあるが、恐れるには足りない。
もはやクルーヤもセシリアも存在せず、この子供の生命は自分の一存にゆだねられているのだ。生かすも殺すも、凌辱するも、自分の思い通りにできる。
母を思い通りにできなかった腹いせに、セシルを手に入れることに決めたのだ。

羽織っていたローブの前をくつろげ、疲れて眠たげな目をしているセシルの前に己をさらけ出した。
セシルの柔らかい体にそれを擦りつける。
ぬるぬるした先走りがセシルの体をてらてらと光らせた。汚らしい。
そして、白濁を浴びせかける。
白い頬から精液が垂れて行く様子を見ながら、王はけたたましい笑い声を上げた。

世界で一番下種な人間に凌辱され、光を失ったのなら。
私はセシルを迎えに行こうと心に決めた。
その瞳から神聖さが失われたらと思うと、心が躍った。

私が見た絶望。それと同じだけの恐怖を、絶望を、セシルにも与えてやりたい。
そうすれば、私たちは最も深いところで繋がり合える。本当の兄弟になれるのだ。
人間が何者であるか、この青き星がどのような性質を持っているか。
同じ視点から、同じ世界を眺めることができる。

その時、私はこの身を苛む憎悪から解放されるのだ。


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