★君は天使★

馬を駆けて、見晴らしの良い、原っぱまで来た。
弓矢の練習をするためだ。
兵学校の試験には、弓、剣、槍の科目があった。
竜騎士になることのみを目指していた俺は、弓をおろそかにしがちだった。

そこに白馬で駆けてくる者がいる。
白い楯髪をなびかせて、馬を駆る者は、馬と同じく白銀の髪をしていた。
きらきらと眩しい。
彼だ。セシルだ。
セシルも弓を持っている。練習しに来たのだろうか。

馬をギャロップで走らせながら、セシルは弓を引く。
矢を放つと、馬はかなりの速度で走っているのにもかかわらず、狙いを定めた木の真ん中に命中した。

セシルは剣の扱いも、槍の扱いもへたくそだったが、弓は上手に使えるらしい。
へたくそ、というよりも、剣が重すぎて持ち上がらないのだ。
生っ白い腕には筋肉のへったくれもなく、いつもフェンシング用の軽い剣で練習をしていた。

「また会ったね、カイン」
馬を歩かせると、セシルはこちらへ近づいてきた。
「お前、弓はうまいんだな」
3本続けざまに放ち、すべてを命中させたことに感心した。
「字を教えてくれたお礼に、弓を教えようか?」
セシルは首をかしげながら聞いた。
「あぁ、頼む」
俺は弓を取り出した。
構えてみると、セシルが、ちがうちがうと呟いた。
「こうかなぁ」
セシルは発育不良なほど小さかったので、背伸びをしながら、俺の右腕に手を伸ばした。
俺の日に焼けた手に、セシルの真っ白な指が触れる。
柔らかな手のひらが俺の腕を支える。
「もうちょっとこっち」
こう、とか、それ、とか、抽象的なことばっかり言いながら、俺の構え方を手直ししている。
セシルが背伸びしたり飛び跳ねたりするたびに、俺の肩や頬にセシルの銀髪が触れる。
「そうそう、それだよ。やってみて!」
にっこり笑って、俺から一歩離れる。
俺はセシルが矢を放った木めがけて打ち込んだ。
矢は見事に命中した。
「やった!」
セシルはまた飛び跳ねながら喜んでいる。俺が成功したことがうれしいらしい。
きらきらと光を反射する銀色が揺れる。天使みたいだ。

俺はまたセシルの髪に手を伸ばした。
風に吹かれて顔にかかる髪を耳の後ろまで梳きあげてやる。
すみれ色の瞳がまた見上げてきた。
「カイン、君の髪ってきらきら光って天使みたい。僕も触っていい?」
天使みたい。それはお前のことだ。俺は天使じゃない。
「あぁ」
俺は一つにまとめて結いあげていた髪を解いた。
きれい、太陽みたい、とはしゃぎながら俺の髪を撫でた。

しばらくそうしてから、俺は髪を再び結いあげて、弓の練習に戻った。
セシルは馬で走ってくると言い、どこかへ行ってしまった。
日が暮れてきたので、セシルを探しに馬で駆けて行くと、木の陰にセシルを発見した。
バロン城まで送ってやろうと思ったが、セシルの後ろに人影を見つけた。
バロン王陛下だ。
頬笑みながら振り返るセシルの頬に手を充てると、陛下は屈みこみ、セシルの唇にキスをした。
親子の挨拶のキスではなく、舌を入れ込む恋人のキス。
陛下がセシルを解放すると、二人の唇は透明な糸で結ばれていた。
セシルはそのまま馬に乗って陛下と共に城の方へ向かっていった。

セシル、お前は一体誰なんだ。
陛下はセシルに何をしていたんだ。
俺は弓を背中に抱えると、一人で馬を駆り、邸へと戻った。

[ 24/66 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -