★放課後の教室★

兵学校では授業がスタートした。
退屈な授業。本を一人ずつ、朗読させられる。

「ハーヴィ」
彼の番が来た。しかし、彼は立ちあがったきり、何の言葉も発しなかった。

「読めません」
周りがざわつく。
それはないだろう。いくら王陛下の息子だからってあんまりだ。
不良反抗少年の登場に、クラス中がさざめく。
「どういうことだね?」
教諭が眉を顰めて聞く。
「分かりません。字が、読めません」
とんでもないことを言いだした。しばらく教諭との押し問答が続く。
ざわついていたクラスは急に静まり返った。
彼は教諭に連れられて、教室を出て行った。
なんと、本当に彼は字が理解できないらしい。

それから、しばらくの間、彼は授業に出なかった。
別室で個人レッスンを受けているのだ。アルファベットの書き取り。
彼は異国から王の養子となっただの、王の不倫相手の踊り子が生んだ子だから字が読めないだの、あらゆる噂を立てられた。

俺は授業が終わった後、校内を歩いていると、ある教室の中で居残りをさせられている彼の後姿を見つけた。
興味本位で、教室の中に入ってみる。
「やぁ、君か。君も僕を笑いに来たの?」
悲しそうな顔をしてほほ笑んだ。この菫色に見つめられると、俺は自分の心を覗かれるような気がして、ドギマギしてしまった。
「そうじゃない」
彼はノートに文字を書きつけている。自分の名だ。やっと名前を書けるようになったとうれしそうに言った。
「俺の名前を書いてみろ」
なぜ、こんなことを言ってしまったのか。言った後でハッとした。
「君の名前は?」
なんともなしに聞き返してくる。俺の名前を知らない者が、このバロンにいたとは。
「カイン・ハイウィンドだ」
「カイン、カイン。C…?」
「違う。Cじゃない。Kだ」
K,Kと言いながら、不器用そうに鉛筆を持ち直す。へたくそな字を書きだしたが、それがあまりにもお粗末すぎて、俺は彼の後ろから抱きかかえるように、右手を持ち、鉛筆を正しく持ち直さすと、綴りの書き方を教えた。
彼の右手に自分の手を覆いかぶせるようにして、字を書かせてやる。

Kain Highwind

「できた!」
と言ってにっこりとほほ笑む。
優美な字、とはいかない。俺は左利きだから。
俺の方を振り返った時、銀色の髪がふわっと揺れた。
俺は咄嗟に銀糸の中に手を差し込んでしまった。俺の指をさらさらと流れる銀色。
教室に差し込んでくる夕日に照らされて輝く銀色に見惚れていると、彼は立ちあがった。
「ありがとう。カイン。僕、お城に帰らないと」
そう言ってまたすぐにいなくなってしまった。
お城に帰らないと。まるでおとぎ話の王子様だ。

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