★ミシディアの手記★

×月×日 バロンの竜騎士を預かることとなった。槍や剣を使った鍛錬をする者はミシディアにはいないので、修業方法などを参考にしたいと思う。肉体を鍛えることは魔法における精神修業と同様、良い効果を得られるだろう。

×月×日 竜騎士が到着した。名をリチャード・ハイウィンドという。精悍で寡黙な男だ。デビルロードを通ってきたにも関わらず、疲れた表情などつゆとも見せない。これがバロンの兵士か。すばらしい。

×月×日 リチャードは試練の山にこもって修業をするらしい。槍術の修業を近くで見たかったが、残念だ。試練の山には、彼の師(この人も亡くなっているらしい。残念だ)の思念が残っているそうだ。その思念が彼に語りかけ、修業を手伝ってくれるという。本当だろうか。アンデッドだらけの死の山なのだから、幽霊が出てもおかしくはないが、本当にそれが修業となるのだろうか。

×月×日 リチャードは行ってしまった。修業が終わったら帰ってくるそうだ。私も魔法の修業をしながら待つとしよう

×月×日 ミシディアの町に何か不穏な気配を感じる。何かに見張られているような気がするのだ。もしや、リチャードの言っていた幽霊がここまで降りてきたのではないか。彼は禍いをもたらすものだったのか。用心しなくては。


ここからは、ミシディアの僧侶の日常がつづられている。飛ばすことにした。


×月×日 とうとうリチャードが山を下りてきた。(3年間も修業を試練の山で暮らしていたとは、並々ならぬ精神力だ)ここへ来た時とは違った鎧をまとっている。竜のモチーフは変わらないが、装飾は光に溢れ、聖なる力を宿している。彼は聖竜騎士になったと告げた。
己と向き合い、己の弱さと向き合い、己を受け入れることで、自分の持つ悪や欲望から解放され、真の力を得るのだそうだ。
彼の瞳は澄み切り、全てを包容し、全てを許しているように見えた。
この力を得たのはひとえに、彼の師の導きらしい。私も試練の山へ行ってみたいものだ。

×月×日 リチャードは試練の山へ石碑を建てようとしていた。師を祀るためだ。彼の槍が岩をも貫き、荘厳な彫刻まで施していたのには驚いた。

×月×日 石碑は完成したようだ。私は彼の作品を間近で見てみたいと思い、試練の山へ行ってみることとした。石碑はクリスタルのような輝きを持って私を迎えた。そこには「クルーヤ」と書かれていた。
そして、彼を祝福するためにわざわざ来たのだろうか、バロン兵が3人リチャードに付き従っていた。
祝杯を上げようと気の利いたことを言った若いバロン兵がワインをふるまった。これを一気にあおったリチャードと私は、突然全身が痙攣しだし、真っ赤な血を吐いて倒れた。
私はエスナを唱えて一命を取り留めたが、リチャードは体を折り曲げて吐血しているところをバロン兵に後ろから貫かれ絶命した。
私は血を流してその場に倒れ、死んだふりをした。バロン兵は私が死んだものと思ったのか、山を下りて行った。

×月×日 なぜリチャードは殺されたのか。あれは確かにバロン兵だった。私はその日からミシディアとは離れたところに家を建て暮らすことにした。バロン兵は私の顔を見た。
世界一の軍事国家に目をつけられて生き延びられるとは思えない。


カインは手記を閉じた。これはハイウィンド邸の地下室に所蔵される手記だ。
これを手にした時には、バロン王への憎悪を抑えることができなかった。

「父は聖竜騎士になったのだ。そしてその父を殺したのはバロン兵だった。これは本当なのか。しかし、ミシディアへ行って帰ってこなかったというのは母からも聞いていた。
あまりにも厳しい修業を自分に課したため、体を壊したのだと。
バロン王が父を殺す必要があったのか。聖竜騎士をそばに置いておければ、これほど国にとって誇らしいことはないのではないか。」

湧き上がるバロンへの不信感。しかし、自分が生き延びていくには、バロンで力を蓄え、成人するまで耐えるしかなかったのだ。
カインは兵学校で優秀な成績を修め、バロン王に忠誠心を見せ、その足元に跪いた。

バロン王は跪くカインを無表情に眺めていた。
リチャード・ハイウィンドの子供。きっとこやつも私の脅威になり得るだろう。
聖竜騎士を暗殺したのは惜しかった。しかし、クルーヤに導かれ、手に入れた聖なる光だ。
クルーヤを貶め、死に至らしめた自分とは相容れない力。
自分の心に宿る、どす黒い感情を焼き亡ぼす力を野放しにしておくわけにはいかない。クルーヤの力は根絶させなければならないのだ。そのためには兵力が弱くなろうともかまわない。これがバロン王の方針だった。
いつか、この青年も殺すことになるだろう。カインがクルーヤに導かれることはないだろうが、セシルにちょっかいを出されるのは面白くなかった。

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リチャード暗殺疑惑をねつ造。
バロン王への不信感とセシルへの劣情をゴルベーザに操作されて操られたカイン

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