★川辺の夢★

夏の日に、僕は一人で川まで来た。
幼いころは、バロンから北西にある、この小川のある森で、カインやローザと遊びまわっていた。
小さいボートに乗って、川を漕ぎだす。

そろそろ帰ろうとボートの方向を変えようとした時、船底に何かが絡まってしまったのか、船は動かなくなってしまった。
川は深く、潜って確かめるわけにもいかなかったので、僕はだれかが通りかかるのを待つことにした。

日は完全にくれ、夕闇があたりを包むころになっても、通りかかる船は一艘もなかった。
ここで一晩を過ごそうか、と呑気に考えていると、ふと、何か恐ろしいものの気配に気が付いた。

森に棲む獣か、はたまた幽霊か。
正体を見極めようと目を凝らし、身構える。
すると、僕の周りを霧が立ち込め、みるみるうちに視界を覆っていった。

どうして、こんなに濃い霧が立ち込めたのだろう。
噂に聞く、ミストドラゴンが現れたのだろうか。
僕を川の底へ引きずり込むつもりなのだろうか。この状況では勝ち目はない。

僕の想像とは裏腹に、霧は静かに晴れていった。
すると、あたりは様相を変えた。おどろおどろしい雰囲気は消え、僕が幼少のころ、とても愛した懐かしい森となった。

陛下に連れられて、狩りへ出た時の思い出。鴨を撃った僕を、陛下は褒めてくださった。
カインと一緒に駆け回った森。そこで見た木漏れ日。
ローザが教えてくれた花の名前。
それはとても、幸福な時間だった。僕はそのまま眠りにおちてしまった。

翌日、僕はカインが呼ぶ声で目が覚めた。
帰らなかった僕を心配して、カインがボートで探しに来てくれたのだ。
自分のボートが何かに引っかかってしまって動かないと伝えると、カインは僕のボートを引っ張るのを手伝ってくれた。
二人がかりで引いても、なかなかボートは動かない。

渾身の力で引っ張り上げると、何か大きな布に巻かれたものが引き上げられた。
カインと岸へそれを運び、布を解いてみた。

陛下の死体が、そこから出てきたのだった。

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