★銀色の呪縛★

セシルの色。
肌、髪、瞳。
それは、バロンに住む、誰とも似ていなかった。
だからこそ、セシルはどこへ居ても、すぐにセシルだとわかった。
兵学校の騒がしい広間でも、セシルの姿をすぐに見つけられなかった事はなかった。

バロンで、最も高貴とされたのは金色だった。
太陽のように豪華に輝く黄金こそが、繁栄の証とされたのだ。
俺やローザの金色の髪を、貴族連中は褒めそやした。

黄金崇拝のせいで、セシルは気味悪がられていた。
銀色の髪をもつ者などはバロンに存在していなかった。
セシルは幻獣の子だの、モンスターの子だの、色々な噂を立てられた。
バロン城中で、セシルの悪口が飛び交った。

「おぉ、忌々しい。陛下は何を考えておられるのか。あの子が災いをもたらさなければいいが。それに比べて、ハイウインド様の髪はなんと美しいことか。養子になさるなら、カイン様だろうに。」
俺は、この薄汚い口を槍で一突きにしてやりたかった。

ある時、セシルは、日が暮れても、城へ戻らなかった。
陛下と近衛兵は、セシルを探しに森へ入った。俺も、こっそり城を抜け出して、セシルを探した。
心当たりがあったのだ。いつも俺と二人で遊ぶ時の目印にしていた、大樹。
大樹へ近づくと、根元に、白銀に輝くものがあった。
月の光が、セシルの髪を明るく照らした。それは、俺が今まで見たことのある、何もかもよりも美しかった。
セシルは、大樹の根元で眠っていた。
近づいていき、セシルの肩に手をかける。セシルの目からは涙がこぼれていた。

「セシル、起きろ。帰ろう。」
「うん」

セシルは涙をぬぐいながら、立ちあがった。
二人で城へ向かって歩き出す。俺は何も聞かなかった。

しばらく歩いていると、セシルが口を開いた。
「君も、本当は気味が悪いと思っているのか?僕の髪の色を」
セシルはこちらを伺うよう瞳をチラと向けた。

俺にまで怯えたような態度をとる、セシルが、悲しかったのだ。
「誰が何と言ったか知らんが、お前は美しい」
セシルは、はっと息をのんだ。

その時、たくさんの馬が、地面を蹴る音が聞こえた。
近衛兵隊の松明が、森をオレンジに照らした。
陛下の部隊が、セシルを見つけたのだ。

陛下がセシルを呼ぶ。
すると、セシルはすごくうれしそうな顔を陛下へ向けた。
俺は、セシルが行ってしまうのが嫌で、まだこちらを見ていて欲しくて、セシルの髪に咄嗟に手を差し込んだ。

セシルは横顔を一瞬俺の方へ向けた。髪はすぐに指の間からさらさらと毀れていった。
セシルは俺へ頬笑み、「また明日」と呟いて、陛下の方へ駆けていったのだ。

この時から、俺の手のひらには、今でも、銀色の跡がついている。
この銀色こそが、俺の守るべきもの、俺の、祖国なのだ。

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